今日の月は
なぜか赤くて
I want it that way
#6 月夜
「ふぅー」
トランクをどさっと下ろすと、は団服のままベッドに飛び込んだ。
「あー疲れた。なんにもしてないのに」
の言葉に、リナリーは苦笑した。
「いっぱいしたじゃない。馬車に揺られながら景色を見て、視力よくなったと思うし、ディナーを頂きながらあの村長さんの話、なかなか面白かったわ」
「リナリーってポジティブだよね・・」
はベッドに横になってリナリーを見た。
リナリーはトランクを開けてごそごそしている。
その脚線美と言ったら。
「いいなぁ・・・」
「ん?」
リナリーが振り返った。
「リナリーのそのすらっとした足。いいなぁ」
「あら。はDカップでしょう?あたしより大きいわよ」
「そうかなぁ、リナリーだってなかな・・・・・ってなんで知ってるの?!」
びっくりしてはあわてて胸を隠した。
「あ、やっぱりそうなんだ」
にっこりと微笑むリナリー。
(かまかけられた・・・)
はもういやになった。
「先にシャワー頂くわね」
「どーぞー」
ベッドに横たわったままはぺらぺらと手をふった。
シャーと言う音が聞こえる。
しばらくベッドから動かなかっただが、トランクのことを思い出して起き上がった。
トランクを開け、着替えのアンダーなどを取り出す。
それを枕元において整えると、またベッドに座った。
この村長、おしゃべりではあるが、屋敷の品はよかった。
調度品は古そうだが丁寧に磨き上げられており、木の古いぬくもりがあった。
部屋を見回して、ふとベランダが目に入った。
白い両手扉に、白いカーテンがかかっている。
(外の空気でも浴びようかな)
そう思い、はベランダに近づく。
蝶番をはずし、ドアを押すと、ぎぃと言う音と共に風が入ってきた。
白いカーテンをひらひらとゆらす。
今日は、満月だった。
深い藍のビロードのような夜空に赤い月が一つ、浮かんでいる。
周りの星がかすむほどの、光。
赤。
「!」
「っ・・・」
脳裏に浮かぶ人影。
押し込めようとすると、それは一気にあふれてきた。
「、いってらっしゃい」
「、本読まん?」
「」
「」
彼の声は、優しかった。
その声で名前を呼ばれるのが嬉しかった。
教団を出てから今まで、暗い水底に沈めて、鍵をかけてたのに
「うっ・・・・ひっく・・」
何でこうなってしまったんだろうか
何故離れようと思ったのだろうか
辛いのに
これだけ
辛いのに
こんなにも
好きなのに
赤いオレンジがかった柔らかい髪
少し垂れ気味優しい翡翠色の目
声
手
ラビ
「・・っく」
「?」
びっくりして振り返る。
リナリーだった。
「な、なんでもな」
顔をさりげなく隠そうとする。
が、
「目、はれてるよ?」
リナリーの手がそれを遮った。
あわてて目を擦ったが、見られてしまった後だった。
「何で泣いてたの?」
顔を上げると、リナリーの顔が間近にあった。
その大きな両の黒い目は、じっとの目を見つめている。
嘘を一つも逃さない、そういう目だった。
「・・・・あのね」
泣いてたの
そう
彼を思って
「ラビとね・・別れたの」
また涙があふれ出す。
吐き出すように、喉の痞えを押し出すようにそう言った。
それを静かに見つめて、リナリーは言った。
「とりあえず、部屋に入ろ?」
ここ、風があるし、ね?とリナリーはの手を引いた。
はリナリーに従った。
「神田君!!」
任務から帰ってきてすぐ。
廊下を歩いて自室へ行く途中、俺は聞き覚えのある声に名を呼ばれた。
俺の記憶が正しければ、このまま無視して進むのが得策だ。
そう思って、俺はとりあえず無視することにした。
「え、ちょっちょっと待ってよ神田君!神田くーん!神田ユ」
「殺すぞコムイ」
「・・聞こえてるんじゃない」
六幻を突きつけられて冷や汗を流しつつ、コムイは口を尖らせた。
やっぱりと言うかなんと言うか、声の主はコムイだった。
「なんだよ。報告書は明日でいいだろ。もう夜なんだ。寝かせろ」
「あ、うん明日でいいんだ、それは。それより、ちょっと一緒に来てくれない?」
今気が付いたが、コムイはうっすらと汗をかいている。
よっぽどのことがないと汗をかくようなことなどしない、横着もののコムイが、だ。
それに、後ろには医療班が二名、神妙な面持ちでコムイに従っている。
何か、あったのか?
神田は柳眉をひそめた。
「何だ?」
コムイは黙って、付いてくるよう促した。
        
神田登場。
きっと彼はキーマンです。いいとこもっていきます。
次でラビが出るはず。
けい
05,08,14 |