私たちの世界は真っ二つに分かれた


好きだから





I want it that way
#5 旅路


ポクポク、カラカラ。

「おじさん、あとどのくらいですか?」

「あと・・大体一時間半だねぇ」
御者を務めていた麦藁帽子の老人はゆったりとした、老人特有の声でのんびり言った。

「「うぅー」」
リナリーとはそろってげんなりした。




ポクポク、カラカラ。
どこまで続くか分からない、田舎特有のまっすぐな道を、荷馬車は中ぐらいの速さを保ちつつ進む。
その荷馬車の中に、二人の少女エクソシストは座っていた。
もうかれこれ3時間は荷馬車に揺られている。


回りは一面の麦畑。前も後ろも一面に黄色いじゅうたんが広がっている。
その向こうにはうっすらと山が見え、上のほうは粉砂糖をまぶしたように白い。

「こればせめて花畑ならねぇ・・・」
「ちょっとは楽しいのにね・・・」


は荷馬車のふちから手をだす。
少し堅い麦の穂が手の間を擦り抜けていく。


二人はそろってため息をついた。
退屈すぎて死にそう、と言う言葉が二人にはよく合っていた。
書類など、すべて暗記するほど読んでしまった。



任務先の村は、本当に田舎だった。
書類によると、郵便は週に一回。
一番大きな町まで、荷馬車で4時間。
桃源郷状態だった。


「遠いからかもね・・」
「ん?」
のつぶやきに、リナリーは顔を上げた。
「だってさ、エクソシストなんて階級があるだけだもの。人間だよ?それでも見たいなんて、よっぽど退屈してるんじゃない?その村の人」

まったくもってそうだ、とリナリーはゆっくり頷いた。
出来るだけ一つ一つの動作に時間をかけなければ、この退屈な状況ではやっていけないと思ったからだった。


はふと景色に目を寄せる。
この景色、ここ二時間半程はまるで変わってはいなかった。
だがもう夕刻近くなり、麦畑がだんだん朱に染まっていく・・・。


(ラビの、髪の色に似てるなぁ・・)
そうふと頭に思いついた言葉に、あわてて頭を振った。


もう。
いいの。
任務に集中しなきゃ・・。

風が一陣、オレンジの麦を薙いだ。








「「ついたーっ!」」
二人は同時に声を上げ、荷馬車から飛び降りた。

御者のおじさんに少し多めにお金を渡し、明日の夕方着てくれるように、と言うと、おじさんは日焼けした顔をにこっとさせて頷き、馬首の方向を変えまたポクポクカラカラ、一本道を引き返していった。




「さて、と」
は腰に手を当て、町を見回した。
今は夕暮れ。

古そうな、でも趣きのある家がまっすぐな道に転々と並んでいる。
人気がまばらなのは、夕食の時間のせいか。
時たま牛の鳴く声が聞こえる。

「のどかだねぇ・・」
後ろからリナリーが声をかけた。

「うん。・・って言うかリナリー、相変わらすごい荷物だね・・・」
リナリーのトランクはより一回り大きい。

「あら、何があるか分からないじゃない?予備よ予備。さぁ!村長さんの家へ行きましょうか!」
レッツゴーと拳を前方に出し、リナリーがスタスタと歩き出す。
はあわててトランクを持った。



村長の家は小高い丘の上にあった。
蔦の絡まる古い洋館で、古く、どっしりと、木々の中に構えていた。


客間に案内され、二人が座ろうとしたその時、扉がバンと開いて、老人が入ってきた。
恰幅のいいお腹に白い鬚。
急いできたのだろう、呼吸がまだ整っていない。

この人が、村長さんか。
そう思い、リナリーは頭を下げた。

「リナリー・リーと申します。黒の教団エクソシストです」
といいます。同じくエクソシストです」
もあわててそれに倣った。


鬼気迫るかのような勢いで目の前の少女二人を見つめる。
もちろん最初に目が行くのはローズクロス。


それから二人の顔を交互に見てにこっと笑った。

「いやーようこそいらっしゃいました!!まさかローズクロスのお方様方に死ぬ前にお目にかかれるとは!いやはや長生きはするもんですな!まったくこの頃は腰が言うことを聞きませんでなぁ。それでも野良仕事の・・」
この調子で村長は立て板に水状態で話し続ける。

リナリーとは苦笑しながら、イノセンスのことを切り出す機会をうかがった。

しかしてこの村長の演説が終わったのは二時間後。
今宵の満月が高々と昇ったときだった。

『イノセンスの確認がしたい』ととリナリーは言ったが
「もう日も落ちておりますし、井戸の周りは危のうございます」
とメイドさんに言って切り捨てられてしまった。

この村に宿はないということなので、たちは村長屋敷に世話になることになり、部屋に案内された。









埃の匂いがする部屋だった。
部屋は薄暗い。
部屋の真ん中で、終わりかけのろうそくの火が弱弱しく揺らめいている。

男がいた。

ベッドに据わり、腰を曲げて、手に持った何かを一心に見つめている。
その目の奥にはどこか狂気がかったものが揺らめいている。

男は写真に話しかけた。

「今日は、恥ずかしがって逃げたんだよね・・・・」

無論写真から返事がこようはずもない。

それでも男は話しかける。

「知ってるよ、君も僕のこと、好きって」
目の奥にろうそくの火が映る。

男は楽しそうに笑った。











最後こわっ!男こわ!
もうなんかもう複線ですね。はい。




けい

05,08,12