もうさよならは言わない

もうごめんなさいは言わない








もう泣かない







ここから君と歩いてく























I want it that way
#26 未来















ひゅう、と冷たい風が頬を切る。

寒い

そう思うが、眼前に広がる光景に、ここを動けないでいる。


長い黒髪が動きにあわせて激しく靡く。
使い込まれたマフラーが風をすり抜ける。

「ユウ、ちょっとスピード落ちてきたんじゃねーのぉ?」

「黙れ!!!」

繰り出された六幻をラビが柄で受け止め、軽く薙ぐ。
ギャッと音がしてラビの槌の柄を六幻がすべる。

ラビはそのままくるりと反転させると、柄で神田の腹を叩く。

「ほーら。やっぱ遅いさ」
「ぐっ」
軽くうめいた神田は、ラビの挑発にかっと目を見開くと六幻を下から振り上げる。

「おっと」
ラビがすかさず後ろに下がる。
と、神田は一気に距離を縮め、ラビのひじを取ると後ろに回り、すばやく捻りあげた。

「ぎゃっ!」
ゴキン、と音がして、は思わず痛そうに眉をひそめた。

「何もはずすことないさ!」
「ウルセェ。俺の勝ちだ」

そう短く言うと、神田は木の下においてあった自身の団服をバサッと羽織る。
そしてくるりと背を向ける。

「帰る」
返事も聞かず、神田はいつもの裸足のままで帰って行った。


「お疲れ、ラビ」
木の枝に座って鍛錬を見ていたは、ざっと木から降りてラビに駆け寄った。

「ううー痛いさ」
「ブックマンのところ、いく?」
は泣きそうな顔で右手を左手で支えている。
そのひじは赤く、曲がってはいけない方に曲がっている。

その様子に、今までたいした大怪我をしたことがないは痛そうな顔をしている。

「うんにゃ。またぐちぐち言われるから行かん」
そしてラビはぐっと支えの左手に力を込めると、ぎゅっと目をつぶってゴキンと腕をはめた。

「うんうん」
グーパーを繰り返して、肘を曲げ伸ばしする。

「大丈夫?」
「ん、OKOK。さーて」

ラビは落としていた槌を拾うと、太腿のホルダーに納めた。

「寒かったろ?先帰っててもよかったのに」
は笑って首を振った。
「面白かったもん。そんなに寒くなかったし」

その言葉に、ラビは団服を脱いでの肩にかけた。

「え、い、いいよ!別に!ラビも寒いでしょう?」
「『も』ってことは、やっぱ寒かった?」

は思わずバツの悪そうな顔をして目をそらす。

「図星さ?」
にやっと笑ってラビはを抱きしめた。

「・・・・ん」
は自身の張っていた意地が恥ずかしくなる。
ラビの体は軽く上気していて、温かい。

ラビはそんなが可愛くて、髪に顔をうずめる。
頬をのひんやりとした髪がくすぐる。
「やっぱ冷たい。ごめんな」
「・・・いいよ。私が好きで待ってたんだから」

「かっわいい!」
ぎゅっと力を込めると、ラビは動かなくなった。

がようやく口を開く。
「ラビ・・・?」



「ん?」

囁くような声で会話する。

「俺、明日から任務」
「・・・・そう」
何とかは動揺を飲み込んだ。

「・・誰と?」
「リナリー」
「・・妬いちゃうな」
ポソリというと、ラビはばっと顔を上げての肩をつかむ。

「俺が愛してるのは!」
『愛してる』という言葉にはぼっと頬を染めると、恥ずかしさを押し殺してぐっと顔を上げる。

「信じてるよ」



恐れないから

そう決めたから


泣かないよ

そう決めたから


笑うよ


そう決めたから?


いいえ






「無事を毎日祈ってるから」
「・・・・超マッハで済ませてくる」
その言葉にはクスリと笑った。



楽しいから



「帰ろっか」
「ん」
「寒くない?やっぱ団服」
「動いたばっかで暑いさ」

二人ともどちらからともなく手を握る。


そして歩き出す。












幸せだから


笑うよ


いろんなことがあった

それはずっと

心の中に




これからも

いろんなことがある

ずっと



でも君がいれば

大丈夫




願う



そうだといい



ずっと


それが続くといい





幸せが





「帰ってきたら、すぐ私のところに来てよ?」

「もっちろん」











二人は笑った。












[END]










ここまでお読みくださり、ありがとうございました!
途中途中でくじけそうになりながらも、皆様のあたたかい言葉を糧に、ここに全26話完結と相成りました。
ここまで続けることが出来たのは、ひとえに皆様のおかげでございます。


本当にありがとうございました!


余力のある方
舞台裏へどうぞv




けい

06,02,05