噂。
『ファインダーの一人が狂った。名前はディアドロ』
それですべて合点がいった。
ディアドロだったのだ、あの時の男は。
混乱していて気がつかなかった。
でもあれは、ディアドロだったと、今なら言える。
私の所為。
自意識過剰だと思っていたけれど
違った。真実だった。
彼は私を気にしていた、という真実。
そして彼は私を恨んだ。
だからラビに手をかけた。
彼の気持ちに気がつかなかった、いや、気付いていないふりをしていた。
私を・・・・
I want it that way
#24 万謝
「室長、いますか?」
「あの山の向こう」
尋ねると、ジェニーがびっと指差すは、書類の山。
は平然とした顔で書類の絨毯をわたって行く。
「室長?」
「んー?」
ひょいと覗き込むと、コムイは書類の裏にウサギを書いていた。
「・・・またサボってるんですか?」
「い、いやーー。えーと、あはははは」
ごまかすようにコーヒーをとって笑うコムイ。
「・・まぁ、そんなことはいいんです。その・・訊きたいことがあって」
「なんだい?あらたまって」
首をかしげるコムイに、は意を決したように顔を上げた。
「ディアドロってどうなりましたか?」
コムイの目が突然鋭くなった。
其れに少し畏怖を覚えつつ、はぎゅっと拳を握る。
「・・誰から聞いたの?」
「・・・噂で」
談話室で耳にした。
『ファインダーの一人が狂った。名前はディアドロ』
「・・そっか」
言うとギッと椅子を回して、コムイはに背を向けた。
「・・・彼はデンマークに行ったよ」
「デンマーク?」
「教団の敷地があるんだ。そこで療養治療だよ」
「治療?」
「・・・どうしようもなかったんだ。彼は・・狂ってしまっていた」
コムイの肩がかすかに震える。
狂っていた?
違う
彼は
私が
『お前の所為じゃない』
違う
私が
「っ!違います!私の所為なんです」
狂わせた
「私が、彼を」
「知ってる」
遮ってコムイの静かな声が耳に滑り込んだ。
ギッと椅子をこちらに回す。
コムイは悲しそうな笑みを浮かべていた。
「知ってるよ」
もう一度繰り返すと、が爪が食い込むほど握り締めていた手を取った。
それをゆっくり解くと、包むように握ってを見上げる。
そして、神田と同じ言葉を口にした。
「君の所為じゃない」
「っで、でも!」
なおも言い募る。
その耳に優しいコムイの言葉が響く。
「君にはどうすることも出来なかった」
そうだ私には
ラビしか
たとえ知っていたとしても
いや、知っていたけれど、それでも
私は
ラビを
「・・・室長・・うっ」
ぽた、ぽたとコムイの手のひらに雫が落ちる。
「仕方なかったんだ」
「うっ・・・ふっ・・うぅ」
唇をかみ締めるほど、漏れる嗚咽。
「・・誰も、悪くなかったんだ」
と惹かれあったラビも。
ディアドロではなくラビに惹かれていったも。
自分の気持ちを抑えられなくなってしまうほどに恋い焦がれた、ディアドロも。
「ほら、君。涙を拭いて」
は目を擦った。
「じゃないと、僕がラビ君に恨まちゃうよ」
少しふざけて言うコムイ。
「室長、私」
「彼のことを少しでも想うなら」
「・・・想うな・・・ら?」
コムイは握っていたの最後の手を離す。
「ラビ君と、幸せになること」
ディアドロがああまでして、手に入れられなかった
それを
今
「あぁあぁ。泣かないでってば。・・笑って。ね?」
「・・はいっ!」
は微笑む。
これが彼からの謝罪
これが彼からの祝福
きっと。
これが私からの謝罪
これが私からの薄謝
ずっと・・・
欲を言えば、贅沢を言えば、希望を言えば、我侭を言えば
自分勝手なことを、言えば
彼とまた、話せる日が来るだろうか
笑って、世間話をして、話せる日が来るだろうか
会える日が来るだろうか・・・
        
が思い込んでいる真実は、本当の真実とは少し食い違っています。
でも、そんなことは些事。
ディアドロのことを、少しでもが想うことを書きたかったんです。
けい
06,01,25
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