彼はずっと、彼女の胸に
深い溝を残して
いく
I want it that way
#25 幸福
かちゃ、という音に、ラビが反応する。
扉がわずかばかり開いているが、それ以上開く気配を見せない。
本を伏せて枕元におくと、ラビはベッドを立った。
もう体はほとんどなんともない。
だが、久しぶりに歩いた所為か、少し足元がもたつく。
ドアを開けて、廊下を覗くとが立っていた。
どう見ても不自然な。
「どうしたさ・・・?」
尋ねると、は小さく
「入っていい?」
と聞くので、ラビはそれをドアを大きく開けることで答える。
はふらっと中に入ると、ベッド脇のスツールに気が抜けたように座る。
「・・・?」
「ラビ」
の唇が呟くように名をつむぐ。
ラビはベッドに座り、のうつむいた顔をのぞきこんだ。
「ん?」
「ラビ」
の表情は悲しげだった。
今にも泣き出しそうなところをぎりぎりで耐えているかのようで。
痛々しく感じた。
ラビは自然と手を伸ばすと、を抱きしめる。
「・・・・・んー?」
頭を自身の肩に押し付けて、優しくその柔らかい髪を撫でた。
すると、の肩が震えだした。
肩に冷たい感触が広がる。
ラビは頭を撫でつつ、反対の手で背中を撫でながら、こう言った。
「全部、吐き出していいさ?」
はラビの肩で頭を振る。
「・・・信じてっていっただろ?」
耳で囁かれたその優しい、強い言葉に、はようやく嗚咽を漏らし始めた。
「う・・ひっく・・うぅ・・ふっう」
「どうしたさ?何かあった?」
「・・・・好き」
は言う。
「好き、ラビが好きラビが好き、ラビが・・・」
同じ言葉を繰り返す。
それにラビは目を細め、唇をかみ締めてを強く抱きしめる。
「・・・・うん」
「ラビが好きラビが好き・・なの」
だから
それしかできないから
それしかないから
幸せになることしか出来ないから
「ごめんな・・・さ・・」
彼はきっとまだ私を憎んでいる
それでも浅ましく
ここにいる
「・・・・うん」
「ありが・・と・・う」
「誰も悪くはなかったんだ」
皆がいる
皆が助けてくれた
私はここを離れない
ラビの傍にいる
信じる
怖がらない
そう決めた
『幸せ』
それが皆へのお返し
それしかできないから
ディアドロにも
それしかできないから
彼には何もあげられないから
彼もいつか
いつか・・・
そう信じてる
そう信じたい
自分勝手
でも
幸せを願うから
「ごめんな・・さ・・ありが・・とう」
「うん」
ラビはの言葉全てを肯定した。
「ごめん・・ラビ」
はラビの胸を軽く押した。
ラビは腕を緩める。
泣かないと決めたのに。
笑うと、決めた。
ラビは笑う。
「いや、いーさ」
その言葉に、は微笑む。
ラビはの頬を撫でた。
「・・・理由は、訊かない」
「・・・うん」
ラビは知っているのだろうか
それとも感じ取っているのだろうか
「楽になったら、言って。待ってるさ」
「・・うん」
優しい
ラビは
「ラビ」
「ん?」
「私、ラビといると、幸せだよ?」
言ってにこっと笑う。
ラビは一瞬驚いた風な表情を見せ、少し頬を赤らめそしてまたにこっと笑った。
「俺も」
        
次回最終回です。
けい
06,01,29
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