ラビの手術は、すぐに終わった。

まず、小さな小さな小刀で、すっと傷口を広げた。
そしてラビの腹に軽く切り込みを入れる。

ブックマンがじっと傷口を見つめ、すっと目を細めたかと思うとそのまわりにトトトンと針を打つ。
すると、円柱形の小さな弾が、吐き出されるようにぐっと出てきたのだ。

その場所を縫い合わせるように針を打つ、とブックマンは

「終わりじゃ」

と短く言った。


「もう、ラビは・・?」
ラビの手を握り締めていたが、半ば信じられない思いでブックマンを伺う。

「二時間すれば、この針を抜き、もう一度、今度は周りと、首に鍼を打ちます」
「・・・つまり・・?」
「後も残りますまい」
こともなげに言ったブックマン。

は崩れ落ちた。

気が緩んだ。

張り詰めていたものが、解けてしまった。

「ラビ・・よかった・・・よかった」
心からの安堵の声。

神田、リナリー、コムイにリーバー。
ラビの手術を心配そうに見ていた人々は、ほっと安堵の息を吐いた。
「お疲れ様でした、ブックマン」

コムイがそう、声をかけた。










I want it that way
#22 原因
























「で、この部屋にはじめに来たものは?」
「俺です」
神田が静かに声を上げた。

「神田か。わしは状況を把握できていない。この小僧の師匠として知っておく必要があるのでな、教えてもらいたい」
「・・俺もよくは知りません」




やっとついた教団。
アイツはもう大丈夫かと、そのまま病室に向かった。

扉が開いているのが見えて、変だな、とかすかに思った。
その時、銃声が聞こえて、あわてて走り出した。

見えてきた室内。
銃を下に向けて突きつけている男。
その先にはと、そしてその下から覗くオレンジの髪は、ラビ。

神田はとっさにイノセンスを開放したのだった。



「ふむ・・・ということは、原因は先ほどから廊下に転がっているあの男かな?」
「・・多分」
確信的に神田は言った。
ブックマンは頷くと、廊下を出ようとする。

そこにコムイが声をかけた。
「・・・ブックマン、私も彼に二つ三つ、訊きたいことがある。部屋を」
コムイは目でとラビの方を見る。

「変えませんか?」












所変わって談話室。
ディアドロは『一幻の蟲』に引きずられるようにして連れてこられた。

部屋には『使用中、入室禁止』の文字。

ラビの師匠としてブックマン。
コムイに、もちろんリーバーと、『一幻』を発動させている神田。
そして、どういうことになっているのか聞きたいというリナリーもいた。

「さて」
コムイがすっとディアドロの横に立つ。

「神田君、口を塞いでいる戒めだけ、解いてくれるかい?」
コムイが言うと、神田は眉をしかめた。

「そんなことして、大丈夫かよ」

「平気平気。エクソシストが三人もいるんだから。それに、口をおおってたら話も何も聞けないでしょう?」

神田は仕方なく六幻に手のひらを当てた。
すっとディアドロにまとわりついていた『蟲』が消える。

それと同時に男は叫びだした。

「AKUMAだAKUMAだAKUMAだAKUMAだぁぁぁぁっ!!!!」
思わずリナリーは耳を塞いだ。
すさまじい金切り声。

「お前も、お前も、お前も、お前も、皆AKUMA、皆AKUMAだぁぁぁっ!!!!」
ディアドロの叫びは続く。阿鼻叫喚しているかのように。

「・・・・コムイ」
うんざりした様子で神田が意味を含めた。

ほらみろ、と。

コムイはふぅと動じてない様子でため息をついた。
「分かった。・・・まさか、ここまでとはね・・・神田君、もう一度戒めを」

めんどくさそうに、神田はもう一度六幻に手を当てた。
ニュっと『蟲』が出てきて男の口に絡みつくと同時に、部屋はまた静かになった。

「うん。うん」
一人納得したかのように頷くと、コムイはソファの背に腰をかけた。
足を組んで、手も組む。

「じゃあ、僕が知っているだけのことを話そうか」
君に懸想しているディアドロ。
彼が最近おかしかったこと。
そして銃を手に入れたという情報を耳にしたこと。



「兄さん、じゃあ、ディアドロはがほしくて、ラビを殺そうと・・・?」
コムイはゆっくりと頷いた。
「十中八九は」















まぶたが重い。
見えない錘を満遍なく乗せられているようで。


それでも、どうしても、ラビは目を開けたかった。


・・・」

ラビの手に自身の手を重ねあわせ、それに額を当てていたはばっと顔を上げた。

「ラビ?起きたの?あぁ・・!よかった!もう・・もう、起きないんじゃないかって・・思って・・」


あぁ、そうだ、俺は突然入ってきた男に腹を撃たれて・・・
それで意識が・・・


無意識に手が傷のあった場所へ伸びていこうとするのを、の手がやんわりと押し止める。

「駄目。まだ鍼を打ち直してないから」
「・・鍼?パンダジジイが治療を?」
「うん。・・・ラビ、どこもおかしいところはない?」

ラビは体に気を配るが、特におかしいところはない。
「ないさ」

は絞り出すような声で言う。
「よかった・・もう・・起きないんじゃないかって・・万が一にでも・・そうなったら・・・」

その頭を、ぽんぽんとラビはなぜた。
そしてにこっと笑う。
「・・・・この間もちゃんと起きたさ?」
な、と微笑むラビに、は安心感を取りもどす。

「・・・うん」
「・・・
「何?お水?」

「いや・・・その・・化粧してるさ?」
「え・・あ、うん」

そうだ、リナリーにしてもらった。お化粧も、服も。
あ、服は・・・

「ラビ、私ちょっと部屋に戻ってくる。行きがけにブックマンに言って、鍼変えていただくようにお伝えしておくから」
「・・なんでさ?」
ベッドに横たわっているラビにの服の裾は見えないが、大変な惨事になっている。
ザンバラになっていて、所々糸も出ている。
とてもじゃないが、ラビに・・・好きな人には見せたくない姿だ。

「ね、それから・・あ、ご飯、私そこに放り出しちゃったから・・謝ってもう一回作り直してもらってくる。」
言ってそそくさと立ち上がるにラビは寂しそうな目をした。
それを見たは思わず固まる。

「・・・・な、何?」
「・・行くさ?」
うっと思わずはつまる。

行きたい。行きたいのだがしかし・・・

「う・・・ん」
何とか言葉を搾り出す。

そこでラビは眉をひそめた。
「誰にも見つからないって約束」
「え?」

「だから!約束。誰にも見つからないって」
「・・・なんで?」

「・・・、今綺麗だから。見せたくないんさ」

少しすねたように見えるのは気の所為だろうか。

ラビが可愛らしく見えて、は思わず笑った。
そして

「逃げる様に行って来るわ」
そう言って、部屋を出た。

君」
が振り向くと、コムイを筆頭に神田以外のさっきの面々が並んでいる。

「あ・・!ラビの目が覚めたんです。ブックマン、鍼の続きを」
「承知」
そう言ってブックマンはするりと進み出ると病室に消えていく。

「で、ラビ君は今しゃべれるような状態?」
コムイの問いに、は笑顔で答える。
「はい。私、散らかしちゃったご飯片付けたら新しいのとってきますね」

「・・・あぁお願いするよ」
「では」
そう言っては走り出した。

























けい

06,01,09