かちゃ、と扉が開く音がする。
人物が扉からその姿を現す。
「持ってきましたよ」
にっこりその人は笑う。
焔を宿した目で。
そして手の物をゆっくりと持ち上げた。
「AKUMAに滅びを」
I want it that way
#20 銃声
ラビは男の手に持っているものを見て思わずベッドから飛び退った。
トンと地面に膝をついたとき、点滴の棒が倒れた。
それに気がつき、ブチッとテープごとその針をはずして投げ捨てる。
突然入ってきた男。
この教団内に、敵がいるはずはない。
しかし、今この男は俺に銃口を向けている。
・・・・・俺の命をとろうとしている
「・・・・何さ?あんた」
相手の手の動き、目の動き、足さばき、銃口。
それら全てに気を配りつつ、ラビはそう言った。
「何?」
男はたまらないとでもいう風に顔をゆがませた。
「もう第二段階に・・?」
「は?」
「見るのは初めてだな・・・第二段階のAKUMA」
AKUMA?
・・・何が?
それにしても、この男・・どこかで・・・
「・・・ちょい待つさ。あんた、この間同行したファインダーのディアドロ?」
「同行した?僕はエクソシストの方に同行したんですよ?AKUMAじゃない」
俺が、AKUMAだと?
ディアドロはぐっと手に力を込め、グリップを握りなおす。
「・・・僕はAKUMAを倒す。・・・さんもきっと喜ぶ・・」
そこまで言ってディアドロは笑い出した。
ぐふっと言う気持ちの笑い、喉にたまるような笑い方。
そしてくっと人差指を引いた。
その目と銃口から判断して、咄嗟に横に転がるラビ。
轟音がして、床石を兆弾した玉が壁にめり込んだ。
ラビは唇をかみ締める。
・・・体が重い
思うように、体が動かない。
逃げようにも、対抗しようにも、こんな状態では・・・
・・・・一か八か
「・・・あんた、おかしいさ!」
「ん?」
「思い出すさ!俺はラビ!エクソシストの、ラビ!」
「‥エク・・ソシス・・ト?」
初めて聞く言葉のように、目を見開くディアドロ。
しかしその目には再び火が燈る。
「そんなわけない。エクソシストはさんだけだ。そう・・美しい、無垢な、さんだけ・・・」
そこでディアドロはうっとりと目を閉じた。
その隙に、ラビは立ち上がり、ドアへ駆け寄ろうとする。
ディアドロは突然目を開け、憤怒の表情で叫んだ。
「AKUMAめ!逃げるなぁぁぁぁぁ!!」
発砲するディアドロ。
ラビは瞬時に身と頭をひねって避ける。
が、バランスを崩し、床に倒れこんだ。
「うぐっ!」
「ふ、ふふふふふふふ!」
ディアドロはゆっくりとラビに近づいた。
ラビは起き上がって体勢を立て直すも、立ち上がるには膝に力が入らない。
くそ・・・ちゃんと食べときゃよかったさ・・・
何が起こっているか、よく把握できない。
しかしディアドロが正気ではなく、自分を殺そうとしていることは理解できる。
そして今、自分に勝機はない。
ディアドロがゆっくりと一歩一歩近づいてくる。
銃口は、ラビに向けたそのままに。
笑みは、壊れたような、貼り付けたようなそのままに。
煙立ち昇る、銃そのままに。
「AKUMAの魂に救済を」
とってつけたような台詞。
ここで・・終わりか・・?
やっとに言えたのに。
やっとと分かり合えたのに。
・・・・
「ラビ!」
「っ!救済されるほど落ちちゃいないさ!」
銃声の寸時まえにラビは転がって弾から逃れる。
しかし銃声は鳴り止まない。
そのあとつづく二発。
初めのの弾は交わしきれずに腹をかすめ、もう一発は・・・。
「ぐっ!」
思わずラビはうめき声を上げた。
その時
カチャ、と扉が開いた。
ベージュの布が覗く。
「ラビ?すごい音がしたけど・・・?!何?!ラビ?!」
が悲鳴をあげる。
手に持っていたものがガチャンと地面に飛び散った。
無理もない。
地べたに這い蹲り、腹から血を流すラビと、それに銃口を向けている男。
戸口で口元をおおって震えているにディアドロは柔和な笑みを浮かべた。
「あ、さん。見てください。僕がAKUMAを倒したんです」
子供のように胸をはるディアドロ。
だがはそんな言葉など聞いてはいない。
「ラビ!」
叫んで駆け寄り、抱き起こす。
どろっとした血で手がすべる。
「ラビ!ラビ!」
「・・早く・・逃げるさ・・早く・・!」
「何言ってるのよ!」
そんなやりとりを、ディアドロはいぶかしんだ目で見つめる。
「・・・・さん?どうしたんで」
「貴方がやったの?」
ディアドロの言葉を遮った。
はいままでラビが見たことのない表情をしていた。
「貴方がやったの?」
は重ねて言った。
いつもは優しく伸びている眉を吊り上げ、柔らかい声は今は鋭い。
「・・・だって、AKUMAですよ?」
「何をわけのわからないことを!!今すぐ出て行って!!!」
は怒鳴った。
ディアドロはおびえた様子で肩をビクリと震わせた。
「さん、だって、僕は、さんに喜んでもらおうと」
「喜ぶ?!人を傷つけて喜ぶわけがないじゃない!早く出て行って!医療班の人を呼んできて!」
は混乱していた。
ただ、ラビへは心配が、ディアドロには怒りだけがあった。
ディアドロはおびえた表情から、突如眉をひそめた。
「・・・・・嘘だ」
「ラビ、ラビ!しっかりして!」
その声はラビには聞こえない。
腹からの出血がひどい所為か、息が荒い。
「嘘だ・・・」
「貴方!早く医療班を」
「嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
狂ったように叫んで、ディアドロはラビとのほうに銃口を定める。
「う、うううう嘘だ。嘘だ。お前もAKUMAだろ?そうだろ?」
カチカチと歯を鳴らし、目を血走らせているディアドロ。
はラビを抱きしめて身を縮こませた。
「貴方・・正気・・?」
「さんのふりをしているんだろ?え?このAKUMAめ!僕が二人まとめて倒してやるぅっ!」
つばを飛ばしてそう叫ぶと、ディアドロはトリガーを弾いた。
思わずラビの上に伏せる。
幸い、銃弾はの上を掠めて壁の石と石の間にめり込む。
は咄嗟にポケットを探る。
・・・イノセンス・・・え?!
なかった。先ほど着替えた所為だった。
自分にはラビを背負い、・・・・・扉の前に陣取っているこの男をすり抜けて逃げ出すことは不可能。
ならば
「!」
ラビを守る。
はラビの上にかぶさり、ラビの手をぎゅっと握った。
「信じてくれるさ?」
信じてる
ずっと愛してる
だから
「は、ははははは!僕が、この僕がAKUMAを倒すんだぁっっ!!!」
目には、火。
唇はつりあがる。
ディアドロは、今度ははずさないようにゆっくりとトリガーを引いた。
        
けい
06,01,06
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