貴方の心は
ここにはないのね
解っていた
もう手遅れだと
解っていたの
I want it that way
#2 貴方
ラビが帰ってきたと聞いたのは、本人の口からではなかった。
書類の整理が終わり、コムイの部屋へ持って行く途中だった。
すれ違うファインダーに声をかけられた。
「あ、さん」
「貴方は、確かファインダーの・・?」
「はい。以前一度だけ任務ご一緒させていただきました」
覚えられていたことが嬉しいのか、ファインダーは少し照れたように言った。
も微笑み返した。
「あの時はありがと。これから任務?」
ファインダーの服はどこも汚れていないことから、はそう訊いた。
「いえ、今帰ってきたところです。いやぁ、ラビさんががんばって下さったおかげで、無傷ですみました」
「え?ラビが・・帰ってきてるの?」
「はい。一緒についたはずですよ」
「そう・・・なの・・」
聞いてない
今日帰る、なんて聞いてない
前のときも、そうだった
「じゃ、私、室長のところに行くから」
「え?あの・・」
手紙も、来てなんてなかった
どうして知らせてくれなかったの?
「どうかしたの?」
「え?・・あ」
目の前にコムイの顔があった。
いつの間にかコムイの執務室に来ていたことに気付く。
はあわてて首を振った。
「いえ何も」
「そう?」
ずずっと手に持った愛用のコーヒーカップでコーヒーをすする。
「何かあったら言ってよ?」
「・・はい」
軽く会釈して、はドアを出ようとした。
すんでのところで、コムイが声をかける。
「あ、ラビ君帰って来てるって、聞いた?」
また
他の人の口から
「はい」
「そっか。まぁ久々の再会、味わってよ」
久々の再会
うん
そのはず
本当なら
真っ先に、会いに来てくれるはずなのに
「失礼します」
は扉を閉めた。
三メートルほど歩いて、そこから駆け出す。
会いたい
ラビに
部屋にはいなかった。
(となると、あとは・・・)
談話室。
なんで?どうして?
世間一般では一応私とラビは『恋人同士』。
一応・・・
頭の中に浮かんだ言葉に、は苦笑いを浮かべた。
判らない
ラビが
「好きです」
「あーうん。俺も」
「・・・・ほ、本当?」
「うん」
私の決死の告白に、ラビはちゃんと返事をくれた。
嬉しすぎて嬉しすぎて、ラビの顔なんかまともに見れなかった。
でも、やっぱりどんな表情をしているか気になって、ちらと目を一瞬だけ上に向けたとき、ラビはそっぽを向いていた。
その時はただ単なる偶然かと思ってた。
舞い上がっていた私はあの時、そんなこと気にも留めなかった。
あれは嫌って言う意味だったの?
嫌だったの?
じゃあ何でうんって言ったの?
なんで・・・
判らない
ラビが、信じられない
目の前に黒い両手扉。
談話室。
きっと、ラビはここ。
ラビは本当に私でいいの?
は取っ手に手をかけた。
やっぱり
ラビがいた。
こちらに気付いて、片手で手を振る。
あの笑顔が、好きだった
やわらかくて
見ているだけで、幸せだった
そのラビのもう片手には、本。
本を読んでいたのね
知ってるわ
ラビがずっと探してた本だもの
良かった
本当に
良かった
私は・・・?ラビの・・何?
駄目
もう
ラビがわからない信じられない
こんなに、好きなのに
「今、いい?」
唇が勝手に言葉をつむぐ。
ラビが自分の隣をぽんぽんと叩く。
これは多分、『座れば?』の合図。
違うの
その席に、私は座れない
「さよなら」
口をついてでた言葉。
心の音。
        
ヒロイン視点。
本当にラビに好きでいてもらえるか、不安になってしまった。
けい
05,08,05 |