コンコンと言うドアの音に、とラビはあわてて離れた。


「ごめんね、入っていい?」

ドアの外から聞こえた、くぐもった声はリナリーの声。
はドアに駆け寄った。




I want it that way
#17 水下








「ごめんね、邪魔しちゃ悪いかなぁって思ったんだけど・・」
伺うようにを見るリナリー。

一緒に来たはずのリナリーは、気を利かせていたようだ。
団服から黒いワンピース・・私服に着替えていることから、どうやら一度部屋に帰っていたらしい。

は真っ赤な顔で首を振る。
「ぜ、全然!今ラビのご飯とりに行こうと思ってたところだから」
「そっか。・・・で?仲直りはすんだの?」
リナリーが二人を見やると、二人はにっこりと笑った。

「「うん」」
「よかった。」
リナリーが自分のことのように嬉しそうに笑ってくれたから、は思わずリナリーに飛びついた。
耳元で、ありがとう、ありがとうと繰り返す
リナリーはよしよしとの頭を撫でながら、本当によかった・・と心落ち着けるのだった。

そこでラビが軽くやきもちを焼いていたのは、二人のあずかり知らぬこと。




、とりあえず、一旦部屋に戻ったら?」
「あーうん。そうしようかなって思ってた」
ここでリナリーはの耳に口を寄せてささやく。

「もう一度お化粧をしてあげるから」
そこではあわてて頬を触った。
頬をぬぐってその手を見るも、何もついていない。


リナリーにしてもらったお化粧。
それはこの強行軍でほとんど落ちてしまっていた。
下手に崩れていなかったのが、もっけの幸い。

あせっていたを、ラビは何のことかわからず不思議そうに首をかしげた。

それに気がついたはリナリーを見た。彼女は頷く。


ラビの為のお化粧。
仲直りした今、ラビに見てもらいたい思いはさらに強くなった。


「お願い」
「うん」
「・・、部屋に戻るさ?」
こそこそとささやきあう二人に、ラビが声をかけた。

「うん。ご飯持って、すぐ戻るから」
腰を上げるの手を、ラビがとっさに握った。

「ラビ?」
「あ、いや。・・別に急がなくてもいいさ」
あわてて手を離すラビ。

は首をかしげる。
「そう?でも、お腹すいてるでしょ?運んでもらおうか?」
が良い」
即答。
その言葉を聞いて、は恥ずかしさと嬉しさで頬を染めた。
ラビが甘えてくれた気がして。

「・・先出てるね」
げっそりした様子でリナリーはラビとに背を向ける。
これだけ目の前でいちゃいちゃされてはたまらない。

はあわててリナリーを追った。
「ご、ごめん、今行くから!」

ドアの外に出て、はラビに手を振る。
「じゃ、ラビ、また後で」
「おぅ」
ラビもにっこりと笑った。

二人を見送った後、頭がふらっとして、ラビはベッドに身を沈めた。
三日も何も口にしてはいないのに、あれだけ話したのだから、無理もない。
気力だけで居たんだなぁと思いつつ、ベッドからコップに手を伸ばす。

寝た体制ながら器用にそれを口にすると、先ほどのことを思い出した。

が飲ませてくれた水。
あれは本当に、甘く感じた。
今、普通に飲んでみて、そう思った。

三日の間に水の味も忘れたのか、とラビは自嘲気味に、いや、それさえも楽しんでいる様子でクスリと笑った。













男は笑った。

これで、あのAKUMAを倒すことが出来る。

暗い部屋。
蝋燭が一本。
ゆらゆらと揺らめいている。
オレンジ色の光が、狭い部屋陰影を映し出している。

映し出されるは、狂気めいた男の顔。
そして一丁の銃。

リボルバーを両手で持ち、力を込め、シリンダーを開ける。
一つ一つ噛締めるようにゆっくりと、弾倉に弾を込めていく。

最後の弾を蝋燭にかざした。
反射して、金属の鈍い光を放つ。

それを最後の弾倉に押し込むと、男は微笑みながらカチンとシリンダーをはめ、ジャッと回した。
そして蝋燭の中心に向かって片目をつぶり、構えるまねをする。

さん・・AKUMAは、退治しますよ」
フッと蝋燭を消した。
それを後ろから静かに見ていた影には、気がつかなかった。













「うーん、ばっちり!さすが私!」
「本当?」
「OK、OK!あ、服はこれね」
胸に押し当てられた服。
広げてみると、優しいベージュの服だった。

「え?これ」
「あぁ、ごめんね、さっきの部屋行って拝借してきちゃった」
メイク道具を片付けながら、リナリーはイタズラが見つかった子供のように舌を出した。

に一番似合うなぁ、と思って」
「・・・ありがとう」
それは、の一番お気に入りの服。
いつか、もし暇が出来て、ラビと出かけることが出来たら、着て行こうとずっと決めていた服。

その服をは抱きしめた。


今は、何もかも、良い方向へ行っている


!服にお化粧ついちゃうわよ!」
「あっ!」
あわてて見るが、何事もないようでほっとした。
そのの背中をリナリーがぐいぐい押す。

「ホラホラ!ラビがお腹すかせて待ってるんだから」
押し込んだ先はパウダールーム。
もちろんコムイがリナリーのために作らせた特注。

「着替えたら、ちょっとまっててね!」

言い置いて、リナリーはさっさと部屋を出て行ってしまった。


「・・・・ありがとう」
リナリ−が消えていった扉に向かっては呟いた。

何度言っても足りないぐらい


(何か今度お礼しなくちゃ)


そう思い、は服を着替え始めた。















「ふーんふふーんふー」
鼻歌交じりにコムイはペンを走らせる。
片手にはもちろんコーヒー。

適当にやっているかのように見えて、すべて完璧。
内心はラビのことでひやひやだが、ラビのことは他の団員には内密にしているので、何事もないかのようにいつもの行動を取るあたり、策士だと言えるかもしれない。

いつもこのぐらいやっててくれれば・・・。

いつもいつもこの男の巻き添えを食らうリーバーは涙を浮かべてため息をついた。
そして、こんなことを考えている暇はない、と首を振る。
こんなことに思考を寄せている暇があれば、この目の前の地質調査の計算を早く終わらせなければならない。

勢い込んでリーバーは、書類の方が大丈夫かという勢いでペンを走らせ始めた。

なので、扉の上・・その物体専用かといえるほどのぴったりサイズの穴から、黒い物が飛び込んできたことなど、まるで気がつかなかった。
リーバーのみならず、他の誰も気がつかなかった。
それがあまりの集中力からか、見えていたとしても幻覚として自己処理していたからかは定かではない。

しかしとにかく、科学班の半屍化した人たちは、目の前の書類で手がいっぱいだったということだ。



ただ一人の男を除いては。

「連絡ご苦労様」
にやっと何を考えているか分からない笑みを浮かべて、コムイは目の前に停まったゴーレムの前にひじをつく。

「で。どう?」
コムイの言葉に呼応したかのように、ゴーレムがぱかっと口を開く。
映し出された映像。

コムイは思わず椅子を蹴って立ち上がった。




























けい

06,01,01