ずるずる。
ずるずる。
引っ張られる私。
ずるずる。
ずるずる。
どっちつかずの私の心。
+Give me!+
真田はタオルを掴んで水場に向かっていた。
さっさと流したかった。
(・・・何を?)
真田は立ち止まった。
自身の心を?想いを?
・・・馬鹿な。
そんな程度で流れるものでもなかろうに。
軽く頭を振るが、どうしても汚いものが胸の根底に渦巻いている。
消え去れはしないとわかっていても、水を浴びれは少しはましになるのではないかと思った。
冷静で、厳格な、まっすぐな自分を少しでも取り戻せれば、と思った。
まして、これから後五分もすれば部活が始まるのだ。
こんなものを抱えたままではいけない。
また早足で歩き出した真田は軽く頭を上げ、そして目を見開いた。
(・・・なぜ、仁王と?)
じゃれるようにしながらこちらに向かっているのは、紛れもなく仁王とだ。
たまに仁王がの頭を引っ張ったりつんつんとつつくと、が何か言いながら跳ね除ける。
そしてお返しとばかりに軽く蹴るのを仁王がひょいとよけ、するとが悔しそうに二度三度と繰り返す。
楽しそうだった。
先ほど自分に向けていた顔ではなかった。
ぐっと握ったタオルがぎゅ、と軋んだ。
「ちょ!仁王!やめてよ!私の髪ワックスついてんだよ?!」
「ほーれほれ、赤也みたいな頭にしちゃるぜよ」
「ほんとーにやめてってば!」
二人でとりあえず部室に向かう道すがら、仁王が地味にちょっかいを出してくる。
いつものことながらうざい、とは思う。
ただ、こうやってふざけあうのはちょっと楽しい、とも。
真田に対するぐちゃぐちゃな気持ちは抱えたままだったけど、このノリでなら今日の部活も乗り切れそうだ。
(うん。がんばろう。部活に私情挟みたくないし、他の部員に迷惑かけらんない)
とりあえず、この気持ちは横においておいて。
「・・・仁王、ありがとね」
なんとなく礼を言うと、仁王はかっかっかと笑った。
なんか全部知ってそうで(私の気持ちを含め)ちょっと気味が悪かったけど、まぁ仁王はそんな奴だしな、と思った。
「よかよ、よかよ」
「もー!やめてって!」
がまたぐちゃぐちゃと撫でてきた仁王の手を止めようとした、その時だった。
「・・・何をしている」
ぴた、と二人は動きを止めた。
は頭がキンとするのを感じた。
「何って、部室にむかっとるんじゃ」
仁王がへら、と答えるその相手は紛れもなくの悩みの種の真田だった。
今から水場にでも行くのだろうか、手にタオルを持っている。
「・・・そうではない。だ。なぜこんな時間になっても制服のままなのだ」
「え・・・あ・・・」
まだ真田に対する準備ができていなかったはうまく言葉が出ない。
詰まってしまったそれを代弁したのは仁王だった。
「はちょいと用事があってのう。先に幸村んとこ行ってから着替えに行くんじゃよ」
「・・・用事とは何だ」
低く、地の底を這うたような声を聞いて、の肩がびくりと震える。
真田は怖がらせていると知りつつも、どうしてもこの感情をとめられなかった。
「どうせ知人と話し込んでいたとかそのようなものだろう!くだらん!」
吐き捨てるように言う言葉とは裏腹に、心が焦りだす。
(・・・よせ)
自分で自分に歯止めが利かない。暴走する。理性が飛ぶ。口が回る。
「大体遅れていたという自覚があるならどうして走ってこないのだ!仁王とふざけながらたらたら来るとは!たるんどる!!!!!」
「真田・・・言い過ぎナリ」
「そんな半端な気持ちでするような奴は我がテニス部に必要ない!さっさとやめろ!」
「真田!!!」
仁王に肩をぐっとつかまれて、真田ははっと現実をみた。
―――――目の前のは、青い顔をして、震えている
「っ!す、すま」
真田が言い終わる前にはだっと駆け出していた。
がんばろう、と絆創膏でとめた決意がばらばらと崩れて散っていってしまった。
    
サポDも素敵だった・・・v
けい
08,10,04 |