放課後になった。

(・・・部活にいかなきゃ)

思いつつも、足も手も一向に動かない。いや、動かす気がしない。

もうクラスの半分の子は出て行ってしまった。
いつもならあわてて出て行く私がいつまでもぐずぐず教室に残っているのを、友達がちらちらと見ているのはわかっている。

マネージャーとして仕事は山ほどあるのだ。
あわてて走っていっても時間は足りない。

そして何より、あの堅物副部長が一分でも遅れれば「たるんどる!」と怒鳴り散らす。

(―――そういえば)

好きになったのもそんな日だったな、と思い出す。


遅れてごめんごめんと言っていたある日、

「お前が来ないと困るのだ」

頭をぽんとされて、私は簡単に真田弦一郎と言う男に落ちていったのだ。










+Give me!+
















(・・・もういかないと)

のろのろと立ち上がって周りを見ると、もう二、三人が教室にいるだけだった。
キャイキャイと話し合っているあのメンバーは全員彼氏持ち。
大方彼氏を待っている間お互いの相手の話でもしているのだろう。

なんだかすごくいたたまれない。
かばんを引っつかみ、教室を飛び出した。


廊下を走りながら、自然と更衣室に向かっていることに気がついた。
途中の教室をちらりと見ると、時計は3時20分を指している。

あと10分で部活が始まる。
ドリンクの用意どころか着替えてすらいない私。

何をやってるんだろう。
きれいさっぱりサボることもできず、かといって行く気にもなれない。

走る速度はゆるくなり、やがて止まった。

(行きたくない)
(行かないと)
(だって真田に会いたくないんだもの)
(他の部員に迷惑がかかる)
(でももう10分しかない)

「お前さん、こんなところでなにやっとるんじゃ?」

思考に沈み込んでいたとき、ぽんと肩をたたかれて私は飛び上がった。
振り返るとジャージ姿の仁王が首をかしげている。

「もう部活の始まる時間ナリ」
「・・・仁王は、何してたの?」
「まぁ、色々あっての。ほれ、はよいかんと真田に怒鳴られるぜよ」

くるりと肩を回され、後ろからぐいぐい押される。
思わず歩き出すと、坂を転がる石のように止まらない。

「ちょ、ちょっと!」
「ほれほれ。が行かんと始まらん」

ぐいぐいぐいぐい。

「に、仁王ってば!」
「とりあえず部室じゃな。着替えてからじゃあ始まる時間に間に合わんしの。来たって事を幸村に伝えてから着換えにいきんしゃい」

仁王の力は強く、思うように抵抗できない。
抵抗できないのは私の身体能力か、それとも心なのか。

わからないまま、そのままずるずると私は部室に向かっていった。


























いつもなら一番に来ている
だから一番に来れば、誰もいない部室でなら謝ることができると思って。
待つこと一分。

部室のドアノブがカチャリと音を立てた。
肩が飛び上がった。
自分でもありえないほどの反応を示した俺は食い入るように扉を見つめる。

「あ、俺一番?・・・って真田、いたのか」

入ってきたのはチョコボール。
ではなく、ジャッカルだった。

「あれ、どうしたんだよ。変な顔して」

心配そうに、ジャッカルが眉をひそめた。
そんなに変な顔をしているのか、俺は。

「変なもん食ったのか?正露丸いるか?」
「いらん!」

俺は丸井ではないぞ。

「そうか。いやさ、ブン太が5限の終わりに来てよ。カップケーキ食べ過ぎたーつって。あいついろんなクラスからもらいまくって47個も食べたらしいぜ」

馬鹿だよなーと苦笑いするジャッカル。
だが俺の思考はその言葉の一点に止まった。

“カップケーキ”

俺のかばんの中にはまだ水色の包み紙に包まれたそれが入ったまま。
なんとなく食べれずにいる。

当然だ。
俺が食べたいのはからのもの。
あてつけのようにしてもらったそれは、あの女生徒には悪いがどうしたっての代わりにはならないのに。

「真田?」

ジャッカルが心配そうに俺を覗き込んだ。

「大丈夫か?」
「・・・あぁ」

言った時、再び部室のドアが開いた。

「失礼します」

眼鏡が光る。
柳生だった。
俺はまた肩を落とした。

それからもドアが動くたびにいちいち反応していたが、次々に入ってくるのは見慣れたテニス部レギュラー達。
の姿はなかった。

なんだか疲れてしまい、ベンチに座り練習試合の依頼書をめくる。

そういえば青学から来ていたな。
あそこはなかなかいいテニスをする。
連絡をしてみようか。

そして再びドアが開く音がした。
どうせまたテニス部員だ。きっと幸村か仁王あたりだろう。

「やぁ」

ドアという額縁の中で幸村がにこやかに手を振っていた。
風のようにするりと入ると、俺の横に腰掛ける。

すでにジャージ姿だ。

「何見てるの?・・・あぁ。練習試合の依頼書ね。俺は青学なんかいいと思うけど」
「・・・俺もそう、思う」

フラッシュバックする昼休みの光景。

は幸村のことが―――”

あって欲しくない予想。
だが十分ありえる予想。

それを打ち消したくて、俺はふと思いついた。

幸村は、どう思っているのだろうか。


俺は周りに聞き耳を立てた。
柳生はめがねを奪おうとする丸井と赤也にやめたまえ君達!と必死に抵抗しているし、ジャッカルは自給のいいバイトを柳に聞いている。
大丈夫だ。

「幸村」
「ん?」
「その・・・だな。」

のことをどう思っている?

たったそれを聞くだけなのに、なぜか言葉が出てこない。

「その・・・」
「カップケーキ?食べちゃったよ」
「そ、そうか・・・」
「あ、違う?のこと?」

くすりと上品に笑った幸村の台詞に俺は目を見開いた。
何故わかった。

「顔に書いてあるからね」
「むぅ」
「俺はのこと、好きだよ」

耳を疑った。
しかし確かに聞こえた言葉。
この距離で聞き間違うはずがない。俺はよくふけているといわれるが耳は確かだ。
喉が突然干上がったかのようにからからに鳴った。

声がかすれるが、何とか言葉をつむぐ。

「そ、うか」
「うん」

俺はのろのろと立ち上がり、書類をゆっくりとデスクに戻した。


外に出たかった。
できれば水を浴びたかった。























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風林火山!!



けい

08,07,22