本当は、君にあげたかったんだ。















+Give me!+















「はいこれ、カップケーキね」
「ありがとう」

昼休み。
調理室から帰る女子の群れから離れ、は幸村のクラスにやってきた。
もちろん出来立てのカップケーキをあげるため。
お弁当を食べてから適当に来ようと思っていたのだが、一緒にお弁当を食べている友人たちがそろって意中の男性に渡しにいくというので、もそれならととぼとぼとこの教室までやってきたのだ。

「あれ、なんかかわいいことしてるね」

袋から幸村が取り出したカップケーキは透明の袋に入れられ、きちんとリボンがされている。
その上の入れ口部分はひだになっており、細かい波を打っていた。

(・・・真田にあげるつもりだったから)

昨日買いに行った深緑のリボン。
ぎざぎざはさみまで買い込んだ私はなんて間抜けなんだろう。

「・・・うん。ほらせっかくあげるんだし、と思ってさ」
「そっか。ありがとう大切に食べるよ。・・・あれ、真田じゃないか」

(?!『真田』?!)

あわてて振り返った先にはネクタイ。
ついで見上げれば渋い顔をした真田が憮然と立っていた。

「いや・・・今日の練習メニューについて、用があってな」
「そっか。で、どれ?」
「これだ・・・む」

上げた真田の右手には何も握られてはいない。
あわてて見回した真田は足元に落ちていたルーズリーフを拾い上げた。

「これだ」
「ふふ、どうしたんだい?動揺しているように見えるけど」

受け取りながらちろりと幸村が真田を見る。
真田は眉間のしわを深くした。

「・・・どうもせん」
「そっか。・・・うん。この腹筋てとこを走りこみに変えたらどうかな。最近雨続きで筋トレは十分だと思うし」
「うむ。わかった」

受け取った真田はしかし動こうとしない。
かわりにちらとに視線をよこす。

「・・・な、なに?」

たじろいだは自分の中の不安な塊ににはたと気がついた。

(この状況って・・・私が幸村にカップケーキあげに来たように見られてるよね・・・いや実際そうなんだけど、でも、それってなんか・・・・)

幸村の右手にはカップケーキ。そしてその隣には私。

(なんかすごい、やだ・・・)

「じゃじゃあね、私いくね」

真田の視線を振り切ってそそくさと立ち去ろうとした
だが真田の声が背中に刺さる。

「それは・・・からもらったのか?」

は振り返った。
『それ』とはカップケーキだったようで。

「うん、そうだよ。・・・何、真田、欲しいの?」

幸村は揶揄するようにそれを持ち上げる。

(ちょ、ちょっと幸村何言ってんの?!)

「あ、でも真田、洋菓子嫌いだったよね。なんでそんなに欲しそうに眺めてるのかな」
「ほ、欲しいなどいっとらん!」
「でもさっきからずっと見てるよ。不機嫌そうに。・・・あげようか?」
「・・・そんなもの、いらん」

はき捨てるように言って、真田は早足でその場を去っていった。
少し離れたところで見ていたも一呼吸おいてそれに背を向ける。

幸村が後ろで何か言っていたようだが、には届かなかった。



“『そんなもの』『いらん』”

(・・・あー、あ)

痛い。
心臓の辺りが、痛い。

きつい。
あ、なんか泣きそうだ。
泣くな、泣くな。
ここ廊下だもん。
泣くな。

多分真田は洋菓子だからそう言ったんだと思う。
うん、きっとそうだ。

そうだよ、きっと。
















しかしその考えは裏切られた。












は見た。
五時間目の移動教室のとき。



真田のクラスの前を通ると、真田がいた。
その前には可愛らしい女子がはにかんで立っている。

たしかあれは隣のクラスの奈々子ちゃん。
この間バスケ部の上田君が振られたらしいということを耳にしていた。

その子が渡しているのはピンクリボンにつつまれたカップケーキ。
神経がそこに集中する。

と、真田がこちらを見、私に気がついた。
ぎゅ、と教科書をすがるように抱きしめる。


(受け取るわけないけど、でも)
(ねぇ、受け取らないよね、洋菓子苦手だって言ってたじゃん)



真田が私から目をそらした。
横で友達が行くよ、と声をかける。

だが、動けない。


(・・・受け取らないでよ)




お願い。




真田が、手を伸ばした。
カップケーキを手にとって、お礼を言う。
奈々子ちゃんは花が開いたように笑った。






















すごいキーボード打つの楽しいです。
風林火山!!



けい

08,06,15