「・・・む」
「どうしたの?真田」
「いや・・・少し、な」

言って真田は鼻をこする。

二人で職員室に行った帰りだった。
マネージャーとして今度の合宿の申請書をだしに行くというと、真田もなにか判子をもらわなければならない用があったらしくついてきてくれた。

ちょっと嬉しかった。

でも、もうすぐ教室についてしまう。
そうすれば自分は女子の輪の中に戻らなければならない。
廊下が延々と続けばいいのに、と思いつつ歩を進めていたとき、真田が突然脈絡なく言った。
言葉を濁してはいるものの、眉間の皺は深くなるばかり。

「?なんか匂うの?」
「・・・甘ったるい」

口をへの字に曲げた真田が文句を言う。
だかはそれで合点がいった。

「あぁ。今日カップケーキなんだよ、女子の調理実習」

私は四時間目なんだ、と告げたははたと立ち止まった。

「さ、真田?」
「なんだ」

は小さく息を吸って、重大な質問をはいた。

「もしかして、お菓子とか、嫌い・・・?」
「洋菓子は少し、な。和菓子なら何とかいけるんだが」

(・・・・先生今すぐ私のクラスの調理実習カップケーキから草餅かなんかに変更してくださいぃぃぃ!!)








+Give me!+






一週間前の家庭科の時間、「来週の調理実習はカップケーキですーエプロン持ってきてねー」と言われたときから誓っていた。

真田にあげる。

前はスパゲッティーでそのさらに前は味噌汁だった。
やっと可愛らしくプレゼントできる実習が回ってきたと思ったのに。




「んなもん、自分で作ってくればいいだろぃ」

ちょうど横の席のブン太に相談すると、適当な返事が返ってきた。
こいつに恋の相談をしている私は間違っているのかもしれない。

「それってなんかめちゃくちゃ気合い入ってるじゃん!きもくない?それってきもくない?!」

ブン太はさして興味もなさそうにお菓子を口に放り込む。

「べぇっつにー。いいんじゃね?」
「いくない!」

は机をたたいた。
机の上に置いてあったブン太のお菓子が跳ねる。

「なんで?」
「わざわざ家から作ってきたらもうほんと私真田のこと好きですよーって言ってるみたいじゃん!」
「いいじゃんか。ほんとのことだろぃ?」
「はずかしいでしょ!だから調理実習で作ったやつだったら真田、私おなかいっぱいなんだけど食べてくれない?とかってさりげなくいえるのに・・・」

(・・・まさか、真田が洋菓子駄目だなんて)

目に見えて落ち込むを見つつ、ブン太は菓子の袋を丸めた。
今は二時間目と三時間目の間の休み時間。
次の授業が終われば調理実習だ。

「今からどーこーしたからって真田がケーキワンホール食べれるわけねぇだろぃ?あきらめな」
「丸井、ひどい」

ぶすっとむくれるを後目に、ブン太は鞄の中から紙袋を取り出す。

「今回は諦めて、次の機会を待てよ。次は饅頭かもしれねぇだろぃ」
「そんなぁ・・・っていうかそれ、なに?」
「ん?」
「それ」

ブン太の鞄を覗くと、お菓子に紛れて紙袋がまだもう一枚入っている。
すでに出している同じ柄のそれをブン太は丁寧に広げていく。

「隣クラスの奴らが作ったカップケーキ、くれるって」

にぱっと笑うブン太。
広げている紙袋は近所のデパートで一番大きいサイズだ。

(・・・お菓子ばっかり食べて動けなくなってしまえ)

なんで真田は丸井ぐらいお菓子好きじゃないんだろう。

「んで?は結局誰にやんだよ」

真田は駄目になったんだろ、と紙袋をセットし終わったブン太は尋ねた。
は窓の外を見た。もうなんか、どうでもいい。

「・・・いつもお世話になってる、ジャッカルあたりにあげようかなぁ」
「それいいじゃん。あいつ喜ぶんじゃね?」
「・・・柳は?」
「いいんじゃね?うん」

ブン太はさっきから適当なことしか言ってない。
多分頭の中は隣のクラスのカップケーキだ。

(・・・あんたなんて幸村の呪いにかかってしまえ)

「ん?呼んだ?」

はイスから飛び上がった。
幻聴かとも思ったが、後ろから涼やかな声が続く。

「どうしたの?」
「ゆ、幸村!あんたなんでここに」

振り返った先に立っていたのはにこやかに微笑む幸村だった。
きょろ、と見回して小さく首を傾げる仕草はどこか少女めいている。

(っていうかさっきの心の中で言ったんですけど!)

「仁王に用事があったんだけど、留守みたいだね」
「え、あ、うん」

も見回すが、仁王はいない。

「で、何の話してたの?」
「え、あ、うん、えっと・・・」

幸村に真田の話は出来ない。
言ったらからかわれるどころかおもちゃにされることは目に見えている。

「カップケーキ」

突然横から口を挟んだブン太をはにらみつけた。

(こいつ、まさか、いらんこと言うつもりじゃないでしょうね・・・)

紙袋の底を広げたり取っ手を伸ばしたりといじっているブン太はこちらに目を向けていない。
なんだかはらはらする。

さ、次の調理実習で作るカップケーキの渡し先まよってんの」
「へぇ、じゃあ俺にくれない?」
「えぇ?!」
「だって、渡す相手いなくて困ってるんでしょ。俺カップケーキ好きだよ」

にっこり笑う幸村。
どうしよう。

でも・・・

(・・・真田に無理矢理渡して、いやがられたり断られたりするぐらいなら)

幸村はほしいと言ってくれている。
どこぞのデータマンのように分析することもないだろう。
「うん、まずいね」ぐらいは言うかもしれないけど、班で作るのだから早々まずいものが出来る心配もない(だから真田にあげたかったのに!)。

「・・・いいよ。昼休みに持っていく」
「楽しみにしてるね」

そういいおいて幸村はさわやかに去っていった。

「よかったじゃん?カップケーキの引取先見つかって」

いつの間にガムを噛み始めたのか、丸井が赤い風船を作る。
はそれをシャーペンの先でつぶしてやった。

「っぶ!あにすんだよ!」
「ちょっとした八つ当たりに近い復讐よ」















ドリライの興奮さめやらず(笑)
風林火山!!



けい

08,05,29