「新入生の皆さん、入学おめでとうございます」

低いけれど、芯のとおった声が朗々とホールに響く。
私語など聞こえない。
皆、食い入るようにその人を見つめている。



「・・・これをもって新入生歓迎、および生徒会からの言葉とさせていただきます」

そう締めくくり、優雅に頭を下げたとき、割れんばかりの拍手がホールに鳴り響いた。

(・・・嘘)

は適当に手をたたきながら冷や汗を流していた。








+School Days+

#5 彼は生徒会長







たった4、5項目。
時間にして1時間にも満たないうちに、入学式は終わった。

バク教頭の誘導により、ホールの後ろの方に座っていたクラスから順にホールを出て行く。
はまだ冷や汗を流していた。

ただの上級生ならいざ知らず、まさか生徒会長だったとは・・・

もしかしたら、あの壇上から見つけていたかもしれない。
今朝失礼な事をした女生徒を。

は血の気が引くのを感じた。

そうだ。
同じ制服を着ていたのだから、同じ学園であることは特定できているはず。
ならばあの壇上から探すか、もしくは生徒会長権限で調べることだって出来る。

(た・・退学とか、なんないよね・・・?)

入学式当日に退学なんて、そんな話聞いたこともないしなりたくもない。

(調子乗ってつけたりするんじゃなかった・・・)

普通に道を聞けばよかったのに、自分が変な羞恥心を出すから・・・
007を頭のBGMにしながらノリノリで追尾をしていた自分を呪いたい。

そんなことを考えているうちに、バク教頭の

「C組、退場しなさい」

という声で、はゆらりと立ち上がった。
後でとあるクラスメイトに聞いた話だが、この時のは精気が抜けたように見えたそうだ。










「はぁぁぁ・・・」

流れ流され、C組の教室についた。
自身の席を確認したは机に突っ伏し、全てを押し出すようなため息を吐いた。

どうしてどうして、だ。

何故こうも運が悪いのだろうか。

「マジで厄日ですか・・・」
「どうかしたの?」

顔を上げると、先ほどおばさんからを救った少女が不思議そうにこちらを見ていた。
大きな目がを見つめる。

「う・・・ん。ちょっと。でも大丈夫ですから」

力なくははは、と笑ったに、少女は不安そうな目をしつつも気を取り直した様子でにこと笑った。

「そっか」
「心配してくれてありがとう。・・えっと」

は一瞬迷った。
名前を知らない。
それを察したかのように、少女が口を開いた。

「リナリー・リー。中国人よ」
「あ、。日本人です」
って呼んでもいい?」
「うん。じゃあリナリーって呼んでも?」
「全然いいよ。」

自己紹介はなんとなく気恥ずかしい。
リナリーが可愛らしい分なおさらだ。

「リナリーってどこ住んでるの?」
「清覧駅から徒歩10分。は?」
「月見駅。うわぁ、見事に正反対」

そんな話をしていると、教室のドアががらりと開いた。
皆の視線が瞬時に集中した。
入ってきたのは、バク教頭だった。
こころなしかみんな気落ちしている。

「前を向いて、姿勢を正せ」

リナリーはパタパタと自分の席に戻った。

バク教頭はつかつかと歩いてきて教壇の上に仁王立ちをする。
偉そうな態度が好きらしい。

(・・・担任?でも教頭だよね?・・なんか嫌だなぁ)

悪い人ではなさそうだが、少し神経質そうに見受けられる。

「えー私は残念ながらこのクラスの担任ではない」

残念そうな声が上がるのを期待していたらしく、ほんの数拍間を開けたバク教頭は不機嫌そうなしかめっ面になった。

「残念ながら、このクラスの担任である、クロス・マリアン先生は・・あー体調不良のため、お休みだ。よってこのバク・チャンが代理を勤める」

こうして、入学式第一日目のHRは始まった。











初めはまたバク教頭の自慢話。

続いていろいろなこまごまとしたプリントが配られた。
諸注意。
保険調査書。
教科書。
先生方の紹介。
上級性が作ったであろう、手書き感たっぷりの校内図。
その他もろもろ。
真面目にすべてきっちり二つ折りにしていたは、途中からめんどくさくなった。

カバンは大きめだし、A4までならファイルに収まる。
角をトントンと机でそろえたとき、またプリントが来た。
それも束にまとめてまたトントンと机を打つと、どうやらそれが最後のプリントだったらしく、ばたばたと周りでプリントをカバンになおす音が聞こえた。
も同じくしようとして、机の脇のフックに目を向けた、その時。

すべてを思い出した。

フックにカバンが掛けてあるはずが無い。
自分のカバンは、ホール脇の垣根の中だ。
思わず立ちあがったが、今はHRの最中。
しょっぱなから教室を飛びだすほどの勇気は無い。

(どうしよう・・カバン・・・。大丈夫かな)

携帯や財布は抜き取ったが、生徒手帳や今日提出しなければならない書類はそのまま中に入っているのだ。

そこで携帯と財布の存在を確かめようと、ごそとブレザーのポケットを探ってはあせった。
ない。
あれがない。
携帯と財布は有れど、スカートのポケットの中にも、無い。
それ以前にカバンから抜き取った記憶が無い。
大事なお守り。

カバンの中に忘れて・・・

(あぁ・・・)

の頭の端を、金色のものが掠めた。

あれを悪意のある人に持っていかれでもしたら・・・

早くHRが終わってほしくてたまらなかった。












「これで初日のHRは終わりである。各自、本日提出の書類を提出した後、退出してよろしい。なお、明日の一時間目の始業時間は8時50分である。5分前には用意を追えて、席についているように。では、列の一番後ろの生徒は自分の列の書類をまとめて教壇に持ってきなさい」

後ろのほうで、がたがたと席を立つ音がした。
自分の提出するべき書類はカバンの中。
書類を集めに来た人に断って立ちあがる。
と、リナリーが声を掛けた。

、一緒に返らない?」
「ごめんリナリー!ちょっと急ぎの用が有って・・・。明日でもいい?」
「私はかまわないわよ。どうかしたの?」
「ホールにカバン置きっぱなしなの!じゃまた明日!」

本当はリナリーと一緒に帰りたかったが、仕方ない。
は教室を飛びだした。

ホールに向かって。
















ヒロインちゃんの中で生徒会長は魔王化してるようですよ。



けい

06,04,09(08,04,02改)