オルガンの音がやんだ。
ギィィィバタン、と豪快な音がした。
振り返ると、ホールの厚い扉がきちっと閉じられていた。
「あなた、しおりは?」
突然、上からの抑圧的な声。
顔を上げると、眼鏡をかけた女性が立っていた。
今にも『〜ざます!』と言い出しそうなおばさんだった。
その体から出る変なオーラに押されてか、は縮こまる。
「す、すみません。失くしました・・」
「まぁ!まぁ!!まぁ!!!それで高校生ですか?!恥ずかしい!」
頬に片手を添えて、そう大声を出すおばさん。
(・・・煩い)
皆がなんだなんだと振り返る。
は羞恥で唇を噛み、膝のスカートを握り締める。
その時、
「私が見せます」
おばさんの金盥のような声とは違った、凛とした声。
「賛美歌を歌うわけでもありませんし。それでよろしいのではないでしょうか」
見ると、隣の女の子が大きな目をおばさんに向けていた。
を挟んで、おばさんと女の子が目と目で応酬を繰り広げる。
が、女の子がにこっと笑うと、おばさんは『うっ』っと唸った。
「・・・高校生としてもっと自覚を持っていただきたいですわね!」
とかぶつぶつ言いながら、すごすごと後ろに下がって行った。
「あの、ありがとう」
女の子はにこっと笑った。
軽く首を傾けた拍子に、ツインテールにした長い黒髪がサラリと肩を跨ぐ。
「いいのよ」
あのおばさん煩かったし、と続けた女の子に、も軽く笑った。
+School Days+
#4 まさか
前のマイクに帽子をかぶった男の人が出てきた。
エヘンとわざとらしく咳をすると、マイクで聞き取れないような大きさでなにかぶつぶつと言った後、眉を顰めてこう言った。
「えー不本意ながら理事長の言葉」
(早速?!)
普通式典の言葉やら開式の言葉とか何やらがあるはずだ。
それをすっとばして理事長の言葉。
どうなっているのだこの学校。
唖然としているうちに、なにやら二人がかりで大きな箱が運ばれてきた。
そしてホールの奥から単調な機械音が響き、布のようなものが降りてくる。
(・・・・スライド?)
の読みは当たってきたようで、ビーというハエが飛ぶようなか細い機械音がホールに静かに通る。
やがて箱から光が出てきて、布に向かって当てられた。
「新入生諸君。入学おめでとう!」
映し出されたのは、モザイクのかかった人物だった。
声にもモザイクがかかっているらしく、変に甲高い。
(・・・は?)
「この学園で君たちが何か素敵なものを見つけられることを祈ってるよ。じゃ!」
すちゃ、とモザイクのかかった手が上がったかと思うと、そこでビデオは途切れた。
たった15秒ほどのビデオだった。
(え?え?ちょ、ちょっと!!)
あれよあれよという間に運んできた人がまた箱を引き上げていってしまった。
(あれだけ?あれだけ?!!)
あんな証言者Aみたいな映像だけ?あの15秒の言葉だけ?
普通理事長の話、とか言うと確実に10分以上は話すはずなのに。
また唖然としていると、あの帽子の人が出てきた。
どうやら司会を務めているらしい。
「えー。理事長の話は終わり。ここからは私の話に移ろう。この学園の校長役をつとめているバク・チャンだ。役職は教頭であるが、バク校長と呼んでくれても一向に構わない。私の先祖は代々・・」
うんぬんかんぬんと話が続く。
バク・・教頭は乗ってきた様子で、身振りまで加えだした。
ぺらぺらと口から流れ出て行くのは自慢話。
そして20分もたっただろうか。
「・・・というわけで。これからの諸君に期待する」
眠気から船をこぎはじめていたには何が『というわけ』なのか分からないが、とりあえずバク教頭の話が終わったことにほっと息をついた。
おざなりの拍手が聞こえてきたので、あわてて自分も手を叩く。
「それでは、新入生の言葉ー!」
自分の話をたらふくした彼は満足したのか、元気そうにそうマイクに吹き込んだ。
すると声に呼応してC組から少年が一人立ち上がった。
頭は雪のように真っ白。
一瞬老人かと思ったが、横顔は若い。
さらさらの白髪をなびかせて少年は壇上に歩みを進める。
壇上のマイクの前で正面を向いた彼の顔には、刺青があった。
「新入生代表、アレン・ウォーカー」
どこか少女めいた風貌の彼は、どこでも聞きそうな『新入生の言葉』を柔らかい声で読み上げた。
そしてペコリ、と一礼をするとまた壇上を下り、席に戻った。
(なんかの民族の子かなぁ)
あきらかに教頭の時とは量の違う拍手のなかで、は刺青を思い浮かべていた。
「次、生徒会より、生徒会長、神田ユウの言葉」
(神田ユウ?)
・・・あれだ。
パンフレットに挟まってた、今期の変な名前の生徒会長。
「「「きゃぁぁぁ!!!」」」
突然ホールに響く黄色い悲鳴。
ホールの後ろを見ると、何時の間湧いたのか、灰星学園の上級生と思われる女の子がずらりと並んでいる。
(な、何?!)
アイドルでも出てくるかのようなその状況。
普通拍手は終わった後にするものなのに、どこからか既にぱちぱちと拍手が聞こえる。
混乱している新入生に向かって、颯爽とホールの後ろから現れた人物。
高く結い上げた漆黒の髪を風に任せながら、壇上へ向かう青年。
には見覚えがあった。
「・・げ」
今朝、桜並木で追尾していた、そして思わず逃げてしまった、あの人物こそが。
「第62代生徒会長、神田ユウ」
その人だった。
        
アレンとリナリーも出てきました。
ちなみに神田会長はアイドルです(ェ
けい
06,04,07(08,04,02改) |