大きな建物から音楽が聞こえる。
あれがきっとホールだろう。

確かあそこで入学式をやるのだ。

本当ならクラスを確かめ、一度クラスで集まってから入場するはずだった。
だがにそんな暇は無い。

ということではホールに直行することにした。


「君、新入生でしょ?」


どこか楽しそうな声が聞えた。










+School Days+

#3:マフラーの君























丁度クラスごとに入場している時らしく、紛れ込むには絶好の機会。
カバンを持っていては怪しいので、とりあえずホール脇の垣根に隠した。
後はもぐりこむだけだが、自分のクラスが分からないことに気が付き、どうしようかと思っていた時。

その時声をかけられた。
ビクリと肩を震わせるが、無視するわけにもいかない。

「え・・あ、はい」

何とか返事をしつつ振り返る。

いたのは、もう春だというのにマフラーをした人だった。

オレンジの柔らかそうな髪に、右目には黒い、海賊がするような眼帯。
残った緑の左目はたれ気味で、今は優しく細められていた。
黒地に金色の線が一本だけ走った腕章は、何かの役員の印らしい。

多分、上級生だろう。
それにしても灰星学園にはいろんな人が居るというのは本当のようだ。
こんな人、イタリアでも見たことが無い。

「あ、やっぱ?どしたの?クラスとはぐれた?」

初対面なのに、慣れた様子で話しかけられる。
が、不思議と嫌な感じはしない。
むしろ、心地よかった。

「あ、あの、自分のクラスが分からなくて・・・」

遅刻しましたなんて言えない。
苦し紛れに取り繕っただったが、予想以上の言葉が帰ってきた。

ちゃんはC組さ」

「・・・はい?」

「あれ?違う?ちゃんじゃない?」

適当で名前まで当てられるはずが無い。

「そう・・ですけど。何で私の名前を・・・?」

「俺、新入生全員暗記してるんさ」

女の子限定でね、と付けたして、マフラーの人はにっこり笑った。
新入生女の子の名前、クラス、はては顔まで暗記しているというのだろうか。

突然、マフラーの人はの肩を持って体をくるりとまわした。
回されて視界に入ってきた、その目の前にはホールに入っていく列が見える。

「C組が丁度入っていってるところさ。お行き」

「えっと、あ、ありがとうございました!」

慌ててお辞儀をして、は列に向かう。
ひらひらと手をふって、ラビはそれを見送った。














ちゃん・・か)

「ラビ。こんなところで何やってる?」

マフラーを翻して振り返ると、視線の先に立っていた人物に笑みを浮かべる。

「ぐっもーにん、ユウちゃん」
「その名で呼ぶな」
「んじゃ、かいちょー。準備は全部整ってるさ」
「あたりまえだ」

言いながらホールへを足を進める神田に、自然な所作でラビもついていく。
その途中、神田はふと足を止めた。

「どしたさ?」

ひょいとラビが覗きこむ。
その視線の先には、垣根に埋め込まれた、まだ真新しいカバン。
捨てた、というより隠した、という感じだった。

神田は歩み寄ってそれをズボッと引き抜と、それを子脇に抱えてまたホールへ向かった。
その様子を首だけで追っていたラビ。
何事も無かったように進む神田の背中へ訝しげに声をかける。

「それ、どうすんの?」

尋ねると、振り返りもせず神田は持ち上げたカバンを中指でこつんとたたいた。

「非常識なことをした奴を叱ってやるにきまってんだろうが」












何とか列に紛れ込んだ。
列の中ごろの女の子に聞いてみると、どうやら出席番号順ではないらしい。
適当に並んだと言う事だったから、適当なところに滑りこませてもらった。
そして他の新入生と同じような顔をして、はホールの石段を登った。

ホールに、何故か保護者などの姿は見えなかった。
簡素ながらも年代ものと言った雰囲気のホールで、オルガンの音が響く。
生演奏だったみたいだ。

自分のクラスのプレートがかかったところに順番どおりに着席すると、はやっと息をついた。












今度はラビとの出会い編。
ブックマンは知識を詰め込むのが得意そう。
だから全学年の女子の名前覚えてもらいました。(ぇ

けい

06,04,05