(かっこよかったなぁ・・・)

パソコンを打っていた手を止め、はため息をついた。
今でも鮮明に脳裏に蘇る神田会長の姿。
思わず頬に熱が上がる。

その熱を振り払うように頭を振ると、はパソコンの画面を睨みつけた。
とりあえずこの生徒大会の書類を打ち込むことに専念せねばならない。
期限はもうすぐなのだ。











+School Days+

#33 何にも知らない私













「・・・、リー、帰っていいぞ」
「はい」
「はーい」

完全下校の7時より10分早く、会長がコピーから帰ってくるなりそういった。
はうちかけの一文を打ち切り、保存すると大きく伸びをする。

「お疲れ
「んー。お疲れリナリー」
「帰ろっか」
「え?あ、うん」

素早いことに、リナリーは自身のカバンとのカバンまでも用意していた。
なんか急いでるのかな、と思いつつは差し出された鞄を手に取った。

「かいちょー、俺は?俺俺」
「お前は昨年度の決算がまだ残ってるだろうが」
「えー!!かいちょーと二人っきりなんてつまんないさー!!」
「黙ってやれ。」
「・・・へーい」

ふてくされて頬づえをつきつつ書類をめくるラビにたちは苦笑した。

「ラビ先輩、手伝いましょうか?」
「あ、いいさ、いいさ。だいじょーぶ」

にかっと笑うラビにわかりましたー、と返事をして頭を下げる。
リナリーも隣でお疲れ様です、と声をかけていた。

出がけに書棚で昨年度のファイルをあさっていた会長にも会釈をする。

「お先に失礼しますね」
「失礼します」
「あぁ。お疲れ」

帰り際のある種の儀式になっていたあいさつを終えて、たちは廊下に出た。
歩いていくと、クラブ終わりであろう生徒がちらほらと増える。
皆向かう先は玄関口。
たちも例にもれず、連れだって出口に向かった。






(・・・いるわ)


リナリーは玄関口で談笑している3人の女子をちらりと見た。
まったくこちらなど眼中にないような風でおしゃべりに花を咲かせているが、こちらを気にしていることはリナリーにはばればれだった。

この一週間、人は変わるがわるであるが、ずっと視線を感じている。
心配であの日の次の日、を家まで迎えに行ったのだが、黒団駅に着いた時から尾行が始まった。
家まで追いかけられていないことに安心しつつも、それからリナリーはと毎朝駅で待ち合わせをしている。
特に殺気は感じられない。
だが油断もできない。

玄関から出ると、案の定3人の女子も付いてきた。

「そういえばリナリー、お料理得意なんだよね?」
「得意ってほどでも・・・ただ昔から作っていたから、苦手じゃないわよ」
「今度教えてくれないかな?私全然レパートリー少なくって・・」

あはは、と笑う
リナリーは微笑んでツインテールを揺らした。

この友達はほんとに何にも気が付いていない。
その呑気さに一抹の心配を持ちつつ、自分が守ればいいんだ、と思いなおす。

「いいわよ」
「やったー!」

いつがいい?、とはカバンから手帳を取り出す。
いつでも、と答えつつ、リナリーはカバンを持ちなおした。









「じゃねー!」
「うん、また明日」

いつものように駅で別れる。
三人組の女子は黒団駅につくなりどこかへ行ってしまった。
の方をずっと見ているが、誰も追いかけている様子はない。

見送った後、ホームに上がる。
ホームのちょうど向かい側に立つが笑顔で手を振る。
アナウンスが聞こえる。の方面に来る電車。
手を振るに振り返すとすぐに電車が割り込んできた。


(今日は大丈夫、と)

息をついてリナリーは電車を見送った。


この一週間で確信できたこと、それは確実にがマークされているということだ。
教室にがいるときに一人でトイレに行ってみたが、見張りの人間はその場から動かなかった。
それを幾度か繰り返し、リナリーは確信に至る。

が狙われている”

何の目的で、何のために狙われているのかはわからない。
あの天真爛漫な友人が入学早々恨まれるようなことをしでかしたとも思えないし、かといって彼女を見張っていても得にいいこともない気がする。
それに人がこんなにもコロコロ変わるということは、何かの組織が裏で動いているのかもしれない。

もうちょっと調べてみよう。
リナリーは携帯を取り出す。
メモリーには半ば押しつけられるようにして交換したメールアドレスの山があった。
記憶の糸を必死でたどり、リナリーは交流会で話していた人たちの名字を思い出す。
新規メール画面を呼び出し、失礼のないように心がけながらあの時言っていた生徒会に近づいた女の子の詳しい顛末と、だれがやったのかを教えてほしい、という旨をしたためた。
送信画面を押すと、ものの二秒で携帯が震えた。
メールマガジンだろうか、と受信ボックスを開くと、“送信エラー”の文字。
アドレスを変更した後だったのだ。
がっくりしているとアナウンスが鳴る。
リナリーは黄色い線から一歩さがった。








特に害もなく、ただ監視される日々。
リナリーも原因も犯人も分からないままただから離れないように、と心がけながら日々をこなす。
会長に報告しようか、と思いつつ、学生大会のために忙しそうな会長には申し訳なくて言いにくい。
学生大会が終わってから、と考え、一か月が過ぎた。








学生大会の日。
このとき、リナリーは一瞬でも気を抜いたことを後悔することになる。















ヒロインちゃんが鈍感すぎる件について。



けい

09,10,11