さん」

呼ばれては振り返った。
先に立っていたのはボブカットのかわいい女の子。
しかし見覚えはない。
校章の色からして2年生らしいが。

「はい・・・なんでしょうか」
「ちょっと来てくださるかしら?」
「えっと・・・今学生大会の真っ最中で」

え、とは後ずさる。

(なんか怖い)

「私、書類の忘れ物を届ける最中でして・・」

というか、なんでこの人こんなところにいるんだろう。
今学生は全員ホールに集まって昨年度の決済報告やらを聞いているはずだ。

「結構ですわ。こちらのものに届けさせます」

女の子の後ろから一人、すっと姿を現したのはポニーテールの女の子。
その子はニコッと笑って私の手から書類をもぎ取った。

「ちょ!な、なにするんですか!これは私の仕事で」
「口答えは結構!!」

ボブカットの女の子がぴしゃりと言い放った。
は息をのむ。

「…いっしょに来てくださるわよね?」

きれいな手がの頬を一撫でして、その横にある髪をぐっと掴んだ。
の小さな悲鳴にも、女の子は臆さない。

「いっつ・・!!や、やめてください!!!離してください!」
「予定どおりになさい」
「はい」

ポニーテールに小さく命を出すと、ポニーテールはさっと廊下を歩きだした。

「・・・さて」

いきましょうか


人気のない廊下。
少女は目の奥に炎を潜ませて微笑む。

は髪をぐっとひかれた。








+School Days+

#34 髪抜ける








(どどどどうしよう、怖い。ほんと、どうしてだれもいないの?いや、学生大会だけどさ、だけど、どうしよう)

髪痛い。

引っ張るの、やめてくれないかな。
痛い、怖い。

ぐいぐい髪を引っ張られて、どこへ行くのかもわからない。
ただどんどんどんどん廊下を突き進むだけ。
髪をつかまれたまま進んでいるので、の足取りはおぼつかない。
よろめきながらも、普通の女子高生よりは格段に速いであろう速度に何とかついていく。

『やめて』『はなして』『なんなんですか』

これらの言葉を繰り返すが、少女は聞こえていないかのようにたんたんと進んでいく。
しんとした廊下に響くのは二人分の足音。
大声で叫んでも無駄なことは実証済みだ。
このロボットのような少女にはなにも聞かない。
レールでもあるかのように最短距離で廊下を曲がり、階段を上っていく。

(・・・あれ?)

これ、もしかして。

(あそこ≠ノ向かってる?)

でもあそこは全生徒立ち入り禁止のはずだ。
―――のに

「時間どおりですわね」

10人はいるだろうか。
女生徒がずらりと並んで、を待ち構えていた。
立ち入り禁止のはずの屋上で。
そう、ここは屋上だった。

何が始まるの?
私はなんでここに連れてこられたの?

「この子?」
「たいしたこと無さそうだけど、本当にこの子が生徒会の新しい役員?」
「はい」

答えた主、もとい、をここへ連れてきた女生徒がどん、とを突き飛ばす。
すんでのところで耐えたが恐る恐る顔を上げると、きれいな顔立ちの女の子ばかりがを取り囲んだ。

「間違いないです」
「でもこんな子が神田様の近くに?」
「信じられない」

ざわめく言葉の中には、好意などかけらも感じられない。
動きたくとも、動けない。

怖い、なにこれ?
いや、もう、ほんと、なに?
やだ、やだ、やだやだやだ―――――

「皆さん、落ち着いてくださいな」

リンとした声が空を裂いた。
一同が一斉に押し黙る。
声を発したのは、美人揃いの中でもひときわ美人の女生徒だった。
長い髪を風になびかせているそのたたずまいは美しいの一言につきる。
胸には三年生の校章が光っていた。

(・・・あれ?この人、どこかで・・・)

「監察の方々の報告書は読みましたでしょう?」

えぇ、はい、といった答えが小さく帰る。

「この生徒が、なんの特徴もなく、なんの秀でた部分も持たずに、神田生徒会長の近くでちょこまかしていることは皆さまご存じのはず」

(丁寧な言葉で馬鹿にされた・・・)

怖さの中に、ショックが駆け抜ける。
が、女生徒は意にも介さず言葉を続ける。

「そこで、このかたの勘違いをただすためにお集まりいただいたのですよ」

さて、と言葉を切り、彼女はを見た。

「お久しぶりですわね。」
「・・・え?」

だれ、と言葉を発する前には息をのんだ。

「あ、こ、交流会の・・・?」
「えぇ。あの節はどうもありがとう。わたくし、法善寺あやめと申します。」

どうぞお見知りおきを、と法善寺あやめは目を細めた。













法善寺は大阪の地名です。



けい

10,05,16