試合はすぐに終わった。
神田会長は立て続けに二本、面と胴をとらえた。
鮮やかな勝ち。
しかし会長はたんたんと終了の礼法を終え、場外へ出る。
はただそれを呆然と見ていた。
+School Days+
#31 かっこいい
「ちゃん?」
の肩が飛び上がる。
ラビは小さく笑って出口を指差した。
「あいつ相手校の挨拶もあるっぽいし、外でまたねぇ?」
「あ、はい」
頷いてラビの後に続いて外に出る。
振り返ると、道場内が暗く見えた。
あの閃光のような試合は本当にあそこで行われていたのだろうか。
不思議なほど生気を失った道場から前方のラビ先輩に目を向ける。
どうやら道場裏に向かっているらしい。
と、ふとは違和感を覚え、きょろと周りを見回す。
周りには特に何もない。
ただ歩きまわっている生徒がいるだけだ。
「・・・?」
気のせいだろうと思いなおして、は開き気味なラビとの距離を埋めようと小走りした。
前方のラビが口角を上げたのにも気づかず。
「あ!!!!」
「どうしたんさ?」
「私明日英語のテストなんです!!帰ります!すみません!!」
言って走り出したは五メートル走って立ち止まる。
そして振り返ってラビに叫ぶ。
「神田会長に、おめでとうございますって!!!」
ラビは了解とばかりににかっと笑って手を掲げた。
それにも手を振り返してまた走り出す。
小さくなっていく背中を見送ったラビはグルンと振り返ってその先に立っていた人物に笑う。
「背中、痛いんさ?」
「・・・黙れ」
そんな仕草は全く見られないのに、ラビは言い当てる。
それがなんだか気に入らなくて、神田は舌打ちしつつラビの横をすり抜けた。
水飲み場へ向うのだろう。
腕の振り方がいつもとほんの少しだけ違うのにラビは苦笑する。
そしてはそれに気付いてしまうだろう。
根拠のないこの感じをラビだけでなく神田も感じ取っているからこそ、がいる間は姿を現さなかったに違いない。
草履の音をさせながら進む神田の後を、ラビも付いていく。
「おまえ、何を考えている」
「・・・さぁ?」
振り返るが、ラビは表情を崩さない。
神田はいら立ちを感じながら蛇口をひねった。
は早足で帰路についていた。
別段早足になる必要もないが、なぜか気がせいてしまう。
(あーもうなんであんなにカッコイイの会長!!)
赤い顔を誰にも見られたくなくて、は顔を下に向けている。
自分が不信者であるということは気づいているが、それでもどうにもとまらない。
(どうしよう、もう、なんか、すごく、すごく)
神田会長にドキドキする。
「あれが、そうですの?」
「はい。あの女子です」
美女がその白魚のような手で指さす方向を見、横に並んだ青年は頷いた。
第二道場で受付をしていたあの青年である。
「たしかに生徒会のバッヂをつけていました。よこにラビさんが並んだのも見ています。」
「そう。報告ありがとう」
さらりと言い放ち、美女は件の女生徒を見つめた。
そしてうつむき加減の髪の隙間からちらりと見えた顔に眉をひそめる。
「・・・あの子、どこかで」
『お願いです!後生です!くじ交換してくださいいい!!!!』
ふと叫び声が頭をこだまする。
はっと美女は思い出した。
(・・・あの時の子ですわね)
どういう因果か、生徒会に入ったらしい。
しかしそんなこと許さない。
「・・・わたくしたちの許しなく神田会長に近づくなんて、百万年早いですわ」
制服のスカートを翻し、美女は女生徒に背を向けた。
これからのプランを立てながら。
(美しい…踏んでいただきたい)
その背中を見ながら、青年は恍惚の表情をしていた。
        
結局剣道の試合がよくわからなかった。
けい
09,08,21 |