背中の痛みは、引いた。

まだ時々痛むこともあるが、試合に支障はない。


膝においていた手をあげた。
手ぬぐいを整え、面をつけ、立ち上がる。

試合が、始まる。








+School Days+

#30 ばれる








「試合があるんですか?」
「うん。神田君は主将だよ。あ、知らなかったの?」

日曜日。
英語の教科書を忘れてしまっていたは休日登校と相成った。
普段なら「別にいいや」で済ませ、休日の今日は自分の好きなようにするのだが、週末明けの月曜日に小テストがあるとなれば、そうも言ってられない。

クラブ活動の生徒が声を張り上げているグラウンド方面に比べ、人気のない校舎はある種異様な空気だった。
机の中に寂しそうにぽつんと放置されていた教科書を抜き取り、さぁ帰ろうと廊下を出たところ、コムイ先生に出くわした。
そこで立ち話をしていたとき、ふとコムイ先生が口にした言葉。

「神田会長が剣道部部長って言うのは知ってましたけど・・・」
「ちょうど今半分ぐらい終わったんじゃないかな?第二道場でやってるから、暇なら応援に行ってあげてよ」

僕これからたまった書類片づけなきゃいけないんだよ、と苦笑いして、コムイ先生は手にしていたファイルを振った。
私も英語の教科書を振った。
残念ながら私も帰って明日の小テストに備えなければならない。

「あ、そうか。そう言ってたよね」
「はい。残念ですけど・・・。じゃあ、さようなら」

言って私は歩を返した。
仕事があるならコムイ先生も忙しいだろうと思って。

「はいはい。気をつけて帰ってね」
「はぁーーい!」

手を振るコムイ先生を目のはしに、間延びした返事をして私は校門へ向かった。






(・・・ちょっと、みたかったかも)

剣道着を着た神田会長。きっといつものような凛とした空気をまとっているに違いない。
そして面をはずした後は、あのきれいな黒髪がはらりと流れ落ちるのだろうか。

(めちゃくちゃ、みたい・・・)

ちょっとぐらい、いいよね。

「えっと第二道場は・・・」










「え?入れないんですか?!」
「許可証がないと・・・」
「それは生徒手帳とかでは・・・?」
「違う違う。関係者のみに配られる許可証。それれがないと入館出来ないんだよ」

道場の門前に陣取った大柄な青年が渋い顔をした。
剣道部の人みたいだ。

(K1じゃああるまいし・・・・)

というかこんなんならコムイ先生も勧めなければよかったのに。
中からは竹刀の小気味よい音が時たま飛び出している。

神田会長の試合なのだろうか。
それともまだ先?

会長は何となく強そう(な感じ)だから、試合しているか待っているところだと思う。

(・・・みたい。でも何にももってな・・・・あ。)

「あの私生徒会の人間なんですが・・・!」

私は胸元のピンを持ち上げた。
入館チェックの彼の目が瞬いた。

(あ、これ、いけるんじゃ)

やった!と心で思った瞬間。
彼はが吹っ飛びそうな勢いで、悲鳴を上げた。








「あれ?ちゃんじゃん」

つばを飛ばしながら必死で、これをどうしたのだ、とかどうやって生徒会にはいった、とかおまえ何なんだ、とか質問責めにされていた私を救ってくれたのはやっぱりラビ先輩だった。

ラビ先輩が私の隣にたって、頭をぽんぽんと撫でて、

「もういいでしょ。試合、始まっちゃうから」

と一言言うと、彼はさっきまでの勢いはどこへ行ったのか。
お入りください、と頭を下げて道場の入り口を示した。

試合が見られる。
それは嬉しい。

でも、さっきの彼の反応が少し引っかかる。

(・・・生徒会に入るって、そんなにすごいことなの・・・?)

しかしその考えも直ぐにどこかへ吹き飛んだ。



―――神田会長の試合が、始まっていた。








あわてて剣道の試合について調べてます。



けい

08,05,12