そろそろ帰ろうか、と言う空気が流れた。
二人のお弁当はまだカバンにしまわれたままだったし、とりあえず用事は全て済ませたはず。

「じゃ、いこっか」
「うん。じゃあ、会長、ラビ先輩失礼し」

二人がぺこりと頭を下げようとしたその時。

「失礼します。アレンウォーカーです」
「はいれ」

からからと扉の音と共に姿を現したのは、今朝といた少年。

「・・・アレン君!」
「あ、さん。こんにちは」

さらりとその白い髪が揺れた。















+School Days+

#28 曲者










「どうしたの?!って、あ」

(そういえば今朝のあの時、会長がウォーカー君に“昼休みに生徒会室に来い!”とか怒鳴ってた気が・・・!)

「か、会長!彼は悪くないんです!ほんとに!ほんとです!」
さん」

ぽんと肩を叩いたアレンは、つかつかと神田会長に歩み寄る。
臆する事もなく、神田を見上げた。

それをはらはらしながら見つめているに、状況がつかめないリナリーは耳打ちした。

。なんでうちのクラスのアイドルが会長とにらみ合ってるの?」
「あ・・・言うの忘れてた」
「は?」
「今朝、一緒に屋上にいるところ会長に見つかっちゃって・・・大目玉食らったの」
「えぇっ?!ほんとに?あのアイドルと?」
「たまたま!」
「・・・、他の人に見つかってたら袋叩きだよ?」

小声で言い合っている間に、アレンと神田は話を進めていた。

「じゃあ、認めるんだな」
「はい」

はその返事にあわてる。
自分にも原因はあるのだ。
なのにアレンだけ何か罰があるのなら、自分はそれを半分受け持たなければならない。

「会長!」
「黙ってろ

会長にぴしゃりと弾かれ、はそれ以上何もいえない。

しかしもし罰があるのなら・・・

は拳を握り締める。

「僕は屋上が立ち入り禁止だと知っていて入りました。すみませんでした。罰は受けます」
「・・・今回は口頭注意にとどめておく。次からはこれだけじゃすまないことを心に留めておけ」
「・・・はい」

(・・・ってことは罰は無し?)

安堵の息を吐くにアレンは微笑んだ。
そのアレンの目線に気がついた神田は今度はに目を向ける。

「二度と入るなよ。もだ」
「は、はい!」
「もう帰っていい」

神田はそうそっけなく言うと、会長椅子に座って書類をめくりだした。
アレンは失礼します、と一礼すると扉に向かう。
途中、とすれ違ったときにこそりと囁いた。

“ありがとう”

が振り返った時には、扉はもう閉められていて。

(・・・私もありがとうって言わないといけないのにな)

今度言える時に言おう。
忘れないように、はしっかりと心に刻んだ。












もリナリーも返した生徒会室。
アレンの話はラビも既に神田から聞いていたので、何も言わずにただ黙ってみていた。
が、ここではじめて意見を漏らした。

「かいちょーにしては優しい采配じゃん」
「あ?」
キィ、と神田の椅子が傾いた。

「いつもなら反省文20枚とか言うのに」
「・・・あいつは新入生で、ちゃんと理解して反省の言葉も口にしている。それをかんがみての結果だ」
「ふーん」
「・・・なんだよ」
「いんや、別になんでもないさー」
「なんだ」
「・・・そういや、なんでリナリーちゃんの入会許したんさ?」

話をそらされたことに気付きつつも、神田は流した。

「あいつは多分、の流れできたはずだ。感もよさそうだし、何かあったときにを守れる」
「いくら感がよくても、そこまで出来る?」
「あいつの足運びは武術をやっているやつのソレだ。それに妹に何かあればあの馬鹿が飛び出してくるだろ。あの万年サボり野郎を引っ張り出すには好都合だ」

自分と同じ事を考えている。
ラビにはそれが心地よかった。
ここまで自分と同じ洞察を持った同世代の人間に、今まで出会ったことが無い。

「あの人、重度のシスコンだからねぇ・・・」
「・・・まさかあいつの惚気てた妹がこの学園にいて、生徒会に来るとはな」
「ま、結果オーライさ」

鼻歌交じりにオレンジジュースを飲む自分の相棒を、神田は眺めた。

飄々としていてつかみ所が無い。
能力はあるし、頭の回転も良い。
先を見る力もある。
が、それを巧妙に隠している。
さきほどのリーのことにしても、こいつは初めから情報を持っていた。
カードを全てさらけ出すようなヤツにはこの仕事は勤まらない。
ましてや自分の横に並ぶ人間には。

だが、自分としてはこいつに何枚カードがあるのさえわからない。
もしかしたら、こいつはその気になれば俺を蹴落として会長にたてるだけのものを持っているのかも知れない。

(・・・机上の空論、か)

どれだけ考えても答えは出ない。

「ユウちゃん、オレンジジュース切れた。買いに行っていいさ?」

ラビはジュースのパックをひっくり返して悲しそうに呟いた。

「・・・勝手に行って来い」

その間に背中の湿布を張り替えておくか。
















誰か!神田君の湿布貼り手伝ってあげて!
絶対上手くはれなくてぐちゃぐちゃになるんだよ!
上手く貼れたと思ってシャツ来た瞬間にずれるんだよ!

けい

08,04,03