「が生徒会委員?!」
「えへへー」
+School Days+
#26 ピンバッチ
灰星学園の生徒は、その学年ごとに異なった色の校章をつける決まりになっている。
色は3色用意されており、一年は赤、二年は青、3年は緑。
当然ながらたちもブレザーの襟にこの色の校章が光っているはずだが。
本日から一年生ではのみ、白色の校章をつけている。
それを目に止めたリナリーは、朝交わされる“おはよう”のフレーズも忘れて悲鳴にも似た声を上げたのだ。
「・・・、その校章・・・」
青ざめた顔のリナリーは恐る恐るに尋ねる。
「うん。私、今日から生徒会役員!」
は嬉しそうににこっと笑った。
白色の校章はすなわち、生徒会役員を意味するもの。
今朝書類にサインした後、特別な行事ごとの日などにつける腕章とこのピンをもらったのだ。
「や、やめたほうがいいわよ!ね?、今すぐピン返して来たほうが良いわ!」
青ざめたリナリーは鬼気迫る顔での肩をがくがくと揺さぶる。
は突然の友人の奇行にぽかんとなるも、慌てて首を振る。
「無理無理!だってもうサインしちゃったし・・・」
「私が燃やすなり破るなりしてあげるから!」
“ね?”とリナリーが再度を覗きこむ。
が、はぐっと拳を握りしめた。
「私、生徒会やるって決めたの。雑用かなんかでもいいから、がんばろうって」
リナリーは唖然とした。
どうしよう
止められない
いや、何としてでも、止めなければ
このドジだが大切な友人を、生徒会なんかにやらせるわけには行かない
素直で率直で、時々馬鹿もやらかすが、そんなところも面白くて放っておけない、この大事な友達を
が生徒会に入れば、あの生徒会顧問・・・もとい、自分の兄に良いようにおもちゃにされるに違いない。
そしてリナリーには何としてでもを止めなければならない大きな理由が別にあった。
(だって・・・生徒会役員って・・・)
悪い噂をリナリーは昨日の交流会で上級生から聞いていた。
“生徒会には、誘われても入ってはいけない”と。
リナリーは眉を顰めて再びに向き直った。
「!」
「?なんでリナリーそんなに反対するの?」
不思議そうに首を傾げるに、リナリーはうっと詰まる。
言えるわけない。
だがここはふんばりどころなのだ。
「と、とにかく!駄目!やめたほうがいいってば!」
「あ、もしかしてリナリーも生徒会に入りたい、とか?」
(ちがーーう!!)
「別に一年生から入れるのは一人とか、そう言う決まり、無いと思うよ?」
「そうじゃなくて!」
「んもう!照れなくていいってば。じゃ昼休みに生徒会室行こっか?私も行かなきゃなんないし」
「ちが・・・」
何とかの誤解を解こうと声を上げたリナリーだが、その声途中で途切れた。
(・・・・そうよ・・・・の決心は堅い。となると・・・私が一緒に生徒会に入れば・・・)
虎の穴に飛び込むのは甚だ不本意だが、もうこの道しか残されていない。
「行くわ!」
高らかに宣言したリナリーに、は“やっぱりね”と笑って肯いた。
そのあと、まもなく始業のベルがなり、たちは席に付いた。
一限目はマリ先生の古文だ。
壇上に立ってぼそぼそと話し始めたマリ先生を横目に、はそっと胸の校章を触る。
つるつるとして真新しい校章には、傷1つついてはいない。
ニマニマしていただが、「ここ、テストで出します」と言うマリ先生の呟きを耳の端に止め、あわててノートを取り出したのだった。
同刻。
神田はぼんやりと窓の外を見ていた。
外では体育科のデイシャ先生が見事なリフティングをしている。
サッカーの授業らしかった。
神田が授業に集中していない、と言うのは大変珍しいことである。
ラビが授業中に寝ている、と言うのは日常茶飯事にせよ、神田が授業中に寝ているどころかぼんやりと外を見ているというのはありえないぐらいのことで、そのいつもとは違うアンニュイな表情に、クラスの女子の眼差しは釘付けなっていた。
その当の神田はというと、今朝のことを思い出していた。
まだおさまりきらないの涙を、神田は何度もぬぐってやる。
それ以外に何か方法はないものかと思った神田の脳裏によぎったのは昨日のラビ。
神田はそれを思いだし、の頭をぽんぽんと撫でた。
そうすればはあのときのように、泣きやんで、軽く微笑んでくれるような気がして。
その時。
「あーっ!ユウちゃんがまた泣かしてる!」
驚いて見やると、ラビは大口を開けて無作法にもこちらを指差している。
神田は慌てて怒鳴った。
「なっ!う、うるさい糞兎!!」
「あーあ。ちゃん?大丈夫?会長に襲われたんさ?」
ラビに覗きこまれて、は慌てて目をこすった。
「ち、違います!私が屋上にはいって、それを会長が叱ってくださっただけで」
その時、その手首を神田が再びどかす。
「やめろと言ってるだろうが」
“こするな。跡になる”
数秒前の神田の言葉が、の記憶によみがえる。
会長は、自分の頬の涙をぬぐってくれて・・・。
今、よくよく考えてみると、それは大分恥かしい状況で。
(ぎゃーーーー!)
「ちゃん、顔、真っ赤」
の熟れた顔を見て、ラビはにやりと笑う。
「ユウちゃん、ちゃんになんかいやらしいことしたの?ん?」
がっしと神田と肩を組んでそう楽しそうに言えば、神田はギロとラビを睨んだ。
そして牙をむき出しにした猫のような表情で再び怒鳴った。
「馬鹿か!そんなことよりこいつに渡すもんが有るんだろうが!さっさとしろ!」
「わかった、わかったさ。この拳、降ろして?な?」
一瞬で目の前につきつけられた拳に、ラビは両手を上げて降参のポーズを取る。
二秒ほどして、神田が拳を降ろすや否や。
「さ、ちゃん、入って入って」
速くしないと、いつ神田の気が変って殴られるか分からない。
どうやらラビも鍵を常備しているらしく、素早く扉を解放する。
そしての手を引いて慌てて飛びこんだ。
廊下に残された神田は一瞬足を生徒会室に向けるも、そのまま入ることは無く、きびすを返した。
自分はまだ部活が残っている。
一応副部長に言いおいてきたものの、部長が朝錬で突然消えたきり、戻らないのでは示しがつかない。
気になってしまう。
どうしようもなく。
なんだ、これは。
なんだ、これは。
神田は足を早めた。
        
けい
07,03,18(08,04,02改)
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