「・・・ウォーカー君・・・?」
「おはようございます。さん」
早起きは三文の徳、と聞いたことがあるけれど。
ことわざとは現実におこるもんだ、と実感した。
+School Days+
#23 天使の憂鬱
「どうかしたんですか?こんな朝早くに」
「え?あ、あのちょっと用事が・・・ウォーカー君は?」
「僕は・・保護者関係の話で、ちょっと」
「ホゴシャカンケイ?」
アレンはごまかすように軽く笑った。
その微笑みはもう輝いているとしか言いようがない。
はラッキーだった。
あの『新入生の言葉』以来、その風貌と整った顔立ちから、このアレン・ウォーカーという人物はみんなの注目の的だった。
真っ白の髪に左顔を走る、傷とも刺青ともとれる星と『ち』のマーク。
それをはじめは皆好奇の目で見ていたものの、ひとたび彼がその笑顔をこぼせば、瞬く間に学園中を虜にしてしまったのだ。
あまりの人気に、も興味を持ちつつも近づく機会がなかった。
これいわば、チャンス、だ。
は予想外の現状に緊張しつつ思った。
アイドルを目の前にした心境だった。
ここで悪い印象を与えてはいけない。
そう考えたはそれ以上追求することもせず、話題を変えた。
「あ、そうだ。ここらへんにコンビニとか、知らない?」
「コンビニ・・・ですか?」
小首を傾げたアレンに、は肩をすくめた。
「だってこんな時間の学校なんて暇じゃない?ジュースかなんかかってこようかと」
「駅・・・ぐらいしかないと思います・・すみません、僕もよく知らないんです」
眉をハの字に曲げてしまったアレンにあわてては首を振った。
「い、いいのいいの!!べつに!朝ごはん食べてきたし!!」
「そうですか?」
「うんうん!!」
は首を一生懸命に振った。
その様子に必死さがにじみ出ていたのか、アレンはクスリと笑った。
「さんは暇ということですか?」
「う・・うん。まぁ、そういうことになるかなぁ・・・」
生徒会室は開かないし、これと言ってするべきこともない。
それにコンビニにまで足を伸ばそうとしていたのだ。
十分暇である。
「じゃあ、僕に付き合ってくれませんか?」
「へ?」
「あ、嫌だったら別にいいんですけど・・」
「嫌じゃない嫌じゃない!!!ぜんっぜん嫌じゃない!!!」
(よぉし!更なるチャンス到来!!)
アレンはにっこり笑っての手をそっと取った。
「え?え?」
「こっちです」
アレンはの手を引いて歩き出した。
「ここって・・・屋上?」
「えぇ」
アレンは何かを鍵穴に差し込んでガチャガチャやりだした。
たしか屋上は鍵がかかっていて生徒は立ち入り禁止なはずだ。
「ウォーカー君、良いの?これ」
「良いんです」
何故か断定系でアレンが言い切ったとき、カチャンと綺麗な音がした。
ここまでほんの数秒。
それも片手はの手を握ったままなので、片手での芸当。
使用道具はヘアピン一本。
(・・・へ変な人・・・?)
「ほら、さん。段差ありますから」
「え、あ、うん」
コンクリート作りの屋上に出てみると、朝独特の気持ちよい風が吹いていた。
朝日が上るのを見られるわけではないが、朝に染まっていく雲はきれいだった。
「うわぁ・・・気持ちいい・・・」
「でしょう?」
振り返ると、アレンが嬉しそうにフェンスを登っている。
「あ、あぶないよ?!」
「大丈夫ですよ、僕、こう見えて結構身軽な方なんです・・・よっ、と」
あれよあれよと言う間に上りきり、アレンはフェンスの上に腰をかけた。
気持ちよさそうに、目を閉じるアレン。
背景は空。
本当に天使みたいに見えた。
「さん。」
「え?はい?」
見とれていると、突然アレンがの名を呼んだ。
「もし・・もし君の信じる人が、信じられなくなって、それでもどうしても信じたいって思ったとき、君ならどうしますか?」
「え?あの、もっかいお願い」
「もし君の信じる人が、信じられなくなって、それでもどうしても信じたいって思ったとき、君ならどうしますか?」
アレンは怒るふうでもなく、あきれるふうでもなくただ同じ言葉を繰り返した。
はその言葉を飲み込むと、アレンを見た。
アレンはこちらに背中を向けたままで、顔さえ、こちらに向けようとはしない。
は少し間を置いて、ゆっくりとその言葉を出した。
「・・・たぶん、信じる」
「信じられなくなっても?」
「信じたいんでしょ?信じたいって思ったら、信じてる」
「・・・・・」
変な質問をして私の答えを聞いたきり、アレンは黙り込んだ。
一度も振り返らないアレンに、も何か感じ取り、ただその下にたたずんでいた。
        
けい
07,01,01(08,04,02改)
|