ただ手をつないで、二人は歩く。
互いに何か言うべきなのだと知りつつも、いい話題が脳裏に浮かんでこない。
ただ手をつないで、二人は歩く。
+School Days+
#21 帰り道
歩いているうちに日もくれ、二人を照らすのは電灯と周りの家々からもれる明りのみだった。
途中途中躓いただったが、手をつないでいたことが幸いしたのか。
顔面と地面がキスすると言う事態は免れていた。
(手・・汗ばんでないかな・・ベタベタしたりしたらキモイよね・・・爪割れてるのって右手だったっけ左手だったっけ・・・)
神田とつないでいる手が気になってしまい、話すどころではない。
おかげで、神田は一言も発さないへの対応をどうすべきか途方に暮れていた。
同様、何か話すべきなのだとは思うものの、気の利いた文句の一つも浮かんでこない。
(・・・っくそ!)
ちらとを見ると、うつむき加減のせいか伏せた目元が見えた。
そこでふと、思い出す。
窓枠から目だけを覗かせた少女。
歌っていた、歌。
「」
「はっはい!」
手ばかり見ていたは、あわてて顔を上げた。
(やっぱり手が汗ばんでた・・・?!)
「お前が歌っていた歌、なんだ」
「歌・・ですか?」
「教室の窓から歌ってただろうが」
「教室・・・あ!あぁ!」
思い出した。
めちゃくちゃ恥ずかしい思いをしたヤツだ。
(・・・やっぱり聞かれてたんだ・・・)
少しばかり落ち込みながらも、話題が出来たことに多少安堵しては答える。
「あれはImparare dal vento っていうTiromantinoの歌なんです」
「いんぱ・・?」
の発音が流暢すぎて聞き取れなかった神田は思わず聞き返す。
は怪訝そうに口を開いた神田の喋り方がおかしく、思わず笑ってしまった。
すると神田が不機嫌そうに眉をひそめたので、恐れたはゆっくりと発音した。
「い、いんぱじゃなくてImparare dal ventoです」
「い・・Imparare dal vento・・?」
「はい」
「英語じゃ・・ないな?」
「はい。イタ語です。私イタリアにいたんです」
「イタリア語か!!」
(どうりで・・・聞いた事ない言語だと・・・)
風に乗って流れてきた歌。
上手くも下手でもない、ただの歌。
なぜか気になって、追いかけた、歌。
「・・・会長?」
「あ?あぁ、何だ?」
「なんであんなところにいたんですか?」
うっと神田はつまった。
からすれば素朴な、なんの含みもない質問だった。
が、神田からすれば『あいつ』のことを説明しなければならないし、何よりよくよく考えてみると会長職についている自分が交流会をサボっているのだ。
神田は苦し紛れにボソリと呟いた。
「と、トイレに行く途中だった・・・」
「そうですか」
(・・・あー失敗しちゃった・・・)
下手な質問をしてしまった。
もっと違う質問だったら、会話が続いていたかもしれない。
会話は弾んで、会長は笑ったりとかしてくれたかもしれない。
(トイレに行っていた、にどうやって続ければいいのよ・・・)
会長も会長だ。
もうちょっと会話が続きそうな返答をしてくれてもいいのに。
がうだうだ考えても、現実会話は終了してしまい、結局駅で二人は別れることになった。
神田が住んでいるのはの住んでいる月見駅がある方向とは正反対だったし、これ以上重苦しい空気が続くことに耐えられなかったからだ。
だが最後の最後まで神田は
「本当に大丈夫か?途中で倒れてもしらねぇぞ、俺は」
と言い続けていた。
「あ、あの!ありがとうございました!」
改札を抜ける前。
手をつないでいる、つないでいられるぎりぎりのライン。
は頭を下げた。
「いや、俺も悪かったからな」
その時、神田会長がちょっと笑った気がした。
「ほら、電車が着てるぞ、いけ」
エスコートするように神田は改札を指した。
は改札に歩む。
するり、と手が抜けた。
の手はかすかに汗ばんでいた。
        
けい
06,12,17(08,04,02改)
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