「ただいま帰りましたー」
「帰る用意しろ」
「はい?」
「帰るぞ」













+School Days+

#20 バイバイ








突然言い渡されたお帰りの時間。
会長はブレザーを着込んでいる最中で、既にノートパソコンや書類はきちんと片付けられていた。

ラビ先輩もどうやら帰ってしまったらしい。
無言で差し出されたメモを見ると、

『また明日ねちゃん!』

と書かれていた。






「電気消すぞ」
「ちょ、ちょっと待ってください、今!」

神田はすでにスイッチの前でスタンバっている。
会長を待たせてはいけないと、は慌ててカバンに筆箱等を放りこむ。

(カバンとりにいっといてよかった・・・)

カバンを閉めるのさえもどかしく、は神田に駆け寄った。

「できました!」

何かを達成したかのような声を出すを一瞥して、会長は一言吐いた。

「走るな・・・タイ、直しとけ」

そしてぱちんとスイッチを切る。

「え?」

は目線を下げた。
自身のネクタイが映る。
ネクタイはシャツと共によれていた。

「わわ!」
「さっさと出ろ」

会長に背中を押されながらはネクタイを解いた。

(うー・・・・はずい)

会長がカチャリと鍵を閉めている後ろで、はカバンを閉め、髪を手櫛で梳かした。


















校舎から出て、ホールを横目に神田とは歩いていく。
クラシカルな電柱が淡い光を落とし、と神田に長い影を描いている。
この無言の空気に堪えられず、は何か話題をふろうと思うが、いいものが思い浮かばない。
下手なことを言ってますます悪い空気になったり、はたまた怒られる可能性だってある。
結局ただただ前を歩く神田についていくだけだった。

(うーん・・・『誕生日』は会長が答えて会話終了しそうだし・・・『おうちどこですか?』も同じ・・・うーん)


そんなことを考えていたせいか、電柱の下の台座に引っかかる。
丁度ぐねった方の足。

「いっつあぁ!!!」

痛いのと驚きでが変な悲鳴をあげる。
前を歩いていた神田は振り返った。
素早く反応し、揺らいだを抱きとめる。

「す、すみません」

会長の腕が、のお腹に回っている。
その腕が自分のとは比べ物にならないほど逞しくて、の顔に朱が走る。

「気をつけろ。・・・背負ってやろうか?」
「は、はい?」

神田の腕から離れて体勢を立て直したは聞き返す。

「足が痛いんなら負ぶってやろうかといってるんだ」

神田は眉間にしわを寄せていた。
心配心から自然に出来たしわだったが、にはまた会長が怒り出したかのように見えた。

「い、いいです!ごめんなさい!!」

叫んで神田を越して歩いていく。
が、足のことを忘れて早歩きしたせいか痛みで片膝が砕け、よろめいた。

「うつっ!」
「馬鹿か」

またしても神田が支えてくれていた。再び感じる会長の腕。

「ったく」

ちっと舌打ちして、神田はの手を取った。

「え?え?か、かいちょ」
「負ぶさるのは嫌なんだろうが。これぐらい我慢しろ」

ぶっきらぼうにそう言って、神田はの手を引いて行く。
その手が大きくて、はさらに赤くなる。

「で、でも・・・」

こんなところ誰かに見られたら誤解されかねない。
会長は迷惑なのではないだろうか。

これだけ美形なのだから、彼女ぐらいきっと・・・

そう考えると何故か落ち込んでしまう。

(・・・・・・・・何で落ち込むの?)

自分で自分に疑問を抱えているをよそに、神田は歩き続ける。
二人は既に門に差し掛かっていた。




















は百面相している斜め前で、神田は思案にくれてていた。

ずきりと時たま痛む背中。

先ほどのラビの言葉を思い出す。









『でもユウちゃん、今週末試合じゃ・・・』

















会長は天然のタラシらしいです。



けい

06,12,10(08,04,02改)