悲鳴を挙げて混乱するを、ラビは適当に言いくるめて職員室に送り出した。
『来週の予算委員会は火曜日に変更』を先生に伝えてくると言う小学生のようなお使いだった。
誰もいなくなった生徒会室で、神田は足音が遠ざかるのを聞いてからラビを睨みつけた。
「おい」
「んー?」
上機嫌なラビは机の上の消しゴムでジャグリングをはじめる。
「あのテーブルに座った奴が生徒会役員だ?聞いてねぇぞ、俺は」
「さっき決めたんさ」
「あぁ?」
声を荒げる神田に、ラビはなんでもないかのようにさらりと言いきった。
「あの席に来た子がいい子だったら誘ってみようかな、と思ったのは本当。でも確定じゃなかったんさ」
ジャグリングしていた消しゴムを片手にトトンと収めて、ラビは笑った。
「だから言ったっしょ?一石二鳥って」
「・・・確定じゃ」
「もう確定。来たのがちゃんだったから」
「・・・」
「もともとは違う方法で生徒会に入れようとは思ってたんだけど」
「・・・お前、あいつのこと気に入ったのか?」
「それはユウちゃんでしょ?」
「ばっ!何言って」
「あの情報処理能力、ほしくない?」
ラビは親指で、が片付けた書類の山を指差す。
神田はそれを見て押し黙った。
初めはなんだかむちゃくちゃなとめ方をしていたホッチキスも、一度教えればきっちりこなしてきた。
はさみの入れ方もあまり早くはないながら正確だし、パソコンのブラインドタッチも慣れているように見えた。
はっきり言って、二人きりの生徒会には欲しい人材。
しかし、と神田は外を見た。
もう赤黒くグラウンドが染まっている。
「・・・あいつらが黙ってると思うか?」
「それをサポートするのがユウちゃんさ。ちゃんが言ってた『先輩』ってのは」
「察しの通りだ」
神田はそう低く言ったきり、口を閉じた。
+School Days+
#19 君に決めた!
「ちゃんとクロウリー先生に伝えてきましたー・・・」
「お疲れ!」
ラビににっこり笑顔でも、の重苦しい表情は晴れなかった。
「・・・やっぱり嫌、だった?」
ソファに座ったを覗きこむようにしてラビが尋ねる。
嫌と言えば嫌だった。
やりきる自信などないし、目立つのもあまり好きなほうではなかった。
勉強があまり出来ないはその時間を生徒会に取られるかもしれない、と言うのも理由の一つだ。
だがはラビや神田の目の前で嫌と言うことも出来ず、押し黙る。
その様子を見たラビは神田をちらと見た。
神田は我関せず、と言った様子でキーボードを叩いている。
「・・・どうしても嫌だったら、別に良いんさ」
「え?」
が驚いたふうに顔を上げた。
その時、神田も顔を上げたのをラビは見逃さなかった。
「無理やりってのもいい気しないし!うん。もうしばらくは俺らだけでがん」
「生徒会に入れば推薦に有利だぞ」
ラビの言葉を遮る声が、ソファの遥か後ろから矢のように飛んできた。
「生徒会に入れば灰星学園大学に推薦もらうときも、他大学に行くにしてもプラスアルファになる」
画面を見たまま独り言のように言う神田。
そしてその言葉をしっかりと聞いていたは目を見開いた。
(プラスアルファって言うことは・・・多少成績悪くても・・・)
大学への道は広くなる、と言うことで。
「や、やります!」
「え?ほんと?」
挙手しつつ宣言したに、ラビが嬉しそうな声を上げる。
そして神田のキーボードが叩く音が心なしか早くなったのを、ラビは内心ほくそ笑みながら耳にする。
「はい!よろしくお願いします!」
「よっしゃ!んじゃ、明日の朝、授業前にここ来てくれる?任命書とかいろいろ有るし」
「はい、何時ですか?」
「ん、と。8時・・・十五分ぐらいかな」
「分かりました!」
返事を聞きながら、ラビは近くにあった余りのプリントの裏にさらさらと何かを書きつける。
そしてそれを適当に折りたたむとに差し出した。
「じゃ、早速お仕事!何度も悪いんだけど、もっかい教員室いって、今度はコムイって言う先生にこれ渡してきて」
「コムイ先生ですね」
聞いたことのない名前なので、は再度確認し、ラビが肯いたのを見るとソファを立つ。
「じゃ、行って来ます」
そう言って、生徒会室を出ていった。
「やぁっぱり、ユウもちゃん欲しかったんしょ?」
「・・・はめられてやったんだ。有り難く思え」
「ありゃ?わかった?」
「あんだけあからさまに水向けられてわからねえわけあるか」
「はは・・・・・・な、ユウ」
「なんだ」
「・・・・背中、どしたんさ?」
「・・・・・・・・・」
神田はノートパソコンを閉じた。
こいつには、かなわない。
「言うな、それ以上。特に、あいつの前では」
「・・・・・・」
        
ラビは策士です。
そして題名はポケ○ンから。
けい
06,11,12(08,04,02改)
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