教室のドアがすごい勢いで後ろに去ってく。
何かもう酔いそうだ。

悲鳴と揺れの所為で切れてしまった唇をそれ以上切らないために、は歯を食い縛っている。

ギリとかみ締めた口内にはかすかに鉄の味。
それでも揺れる、基、揺らされるこの体。
顔面は風圧と揺れと涙ですごいことになっているだろう。

しかし神田の速度が落ちることはなく、行き着いた先は一つのドアの前だった。









+School Days+

#15 保健室









「失礼します。足をぐねったらしいんですが・・・って誰もいねぇのかよ。」

神田はチッと舌打ちし、ずかずかと進むと丸い椅子にをすとんと下ろした。
人間ジェットコースターから解放されたはやっと安定感のある場所にほっと安堵の息を吐く。
涙で気持ちが悪い顔をシャツの袖でごしごしこするとふと周りを見回した。

どうやら保健室のようだった。
真っ白な清潔感ある部屋に、独特のアルコールの匂いが漂う。

そう言えば保健室に来たことは無かったな、とか考えていると、目の前に再び会長がやってきては思わず椅子の上で姿勢を正した。
その時揺れた左足が椅子の足にぶつかる。

「あたっ・・・たたたた」

苦痛に眉を顰めるの足元に神田がスッと膝をついた。
そして突然その左足首をひっ掴むとローファーを抜き取る。

「か、会長?」
「動くな」

神田は反射的に逃げようとする左足を片手で抑えつけ、そしてさらに黒のハイソックスまで脱がしにかかる。

「え?ちょっちょっちょ!!」

はいよいよ慌てた。
しかし、動かすと痛みがひどくなるその左足は神田がしっかりと掴んでいる。
パニックに陥っているうちにハイソックスも足から抜き取られ、ぽいとローファーの上に放る神田。
そしてその足のかかとを引き寄せ、自身の膝の上に乗せた。

「あ、あの・・・?」
「ひねったんだろう。手当てしてやる。」

神田は靴を脱がせる前に言うべき台詞を、湿布をペりとはがした時点でやっと口にした。
そして鮮やかな手つきで湿布の上からテーピングを施していく。

(足の手入れしたっけ・・・二日前にしたけど、大丈夫かな・・・覗きこんだら会長に気にしてることばれるかなぁ・・・)

悩みつつもいまさら手は出せない。
どうしようもなくただその手を眺めていると、ピッとテープを切った神田が顔を上げた。
至近距離の端正な顔に、反射的に顔が赤くなる。

「終わったぞ。立ってみろ」
「あ、はい!」

言われ、慌てては足に力を入れる。
その時すっと神田が手を差し出した。
無意識に手を乗せたは、左足にだんだんと体重をかけていってみる。

何故だろう。
体重を乗せても、あまり痛くなくなっている。
ためしにのろのろと歩いてみた。

「・・・痛くない・・・です」
「そうか」

良し、と跪いていた神田は立ちあがった。
そして湿布のビニールを捨て、テープを引き出しにしまう。

「あの、もう靴履いても良いですか?」
「あぁ。・・・悪かったな」
「え?えっと?」

ハイソックスを履いていたは首をかしげた。
あの人間ジェットコースターのことだろうか。

「ひねったのは俺のせいだろうが。悪かった」

(そういえば・・・)

小脇に抱えられて走ったことの印象が強すぎていて忘れていたのだが、そういえば自分は会長から逃げていたのだ。
交流会をサボって。

の血の気がさぁっとひいた。


そうだ

なんか

退学にするとか


「あ、あの、会長?」
「なんだ?」

神田はペンを持って紙に何かを書きつけている。
それが退学届ではないかとはひょこひょことそちらに向かって歩き出す。

「あ、こら、歩くな!」
「ごめんなさいすみませんだから退学だけは・・・!」

慌ててかけ寄ってきた会長のブレザーをひっ掴み、は懇願した。

「馬鹿!座っとけ!歩くんじゃねぇ!」
「で、でも退学は!まだ入学したばっかりなのに!」
「あぁ?」

眉を顰めた神田に、はビクッと肩を跳ね上げる。
神田はただわけの分からないことを言われて聞き返しただけなのだが、には怒り出したかのように思えたのだ。

(うぅ・・た、退学・・・)

かくなる上は理事長に直談判しかないのだろうか。

が唇をかみ締めた時ふと、神田の目が瞬いた。

「おい」
「はい?」

神田は手を伸ばし、人差指をのあごの下に滑り込ませる。
少し上向きの力を入れられ、されるがまま上を向いてしまった。
が、その時神田の顔がドアップに入ってきて後悔することとなる。

(ち、ちか!近い!近いです!!!)

薄い唇やら切れ長の目、シャープな輪郭、さらさらのぱっつん前髪。
それらが一気に目に飛び込んで来て、は顔を朱に染めた。
何か言おうと口を開くも、それは声にならず金魚のように口をパクパクさせるだけ。

「おまえ・・・」
「は・・・ひ?」

押し出すように出した声。
それを神田は気にする風でもなく、神田は人差指でその顎を支え、親指での唇をそっとなぞった。
そしてその視線をに止めたまま、ゆっくりと顔を近づけてゆく。

(な、なに?!え?キス?この状態ってキスですか!)

の問いに答えるものはいない。


















あらら。ヒロインちゃんの唇やいかに?!




けい











あやか復活記念に、ささやかながら。

06,09,16(08,04,02改)