「待てっつってんだろ!!!!」
「ひぃ!」
「いいかげんにしやがれ!!!」
「ひぃぃぃぃぃ!!!」
、ぴっちぴちの新入生。
ただいま、美形生徒会長神田ユウ氏とおいかけっこの真っ最中です。
+School Days+
#14 鬼ごっこ
神田会長は足が早かった。
まぁ予測できたことだがとにかく早かったのだ。
は運動神経がこれと言って悪いわけではなかったが、神田のスピードに比べれば馬と人状態。
それでも何とかギリギリで凌いでいるのは、ひとえにの切り替えの良さのおかげだった。
曲がる、階段を使うなどして、神田が最高速度を出す前に何とか減速させることに成功している。
特に意識して曲がっているわけではなく、半分は逃げると言う本能からだったが、神田の猪突猛進型の走りには事のほかきいているようだった。
しかしは一つ大きな勘違い、いや、知らなかったと言うべきか。
神田は気が短かった。
「てんめぇ!!とまらねぇと退学にすっぞコラ!!!」
これだけ叫びながら猛スピードで走っているのだから、神田の身体能力は相当なものだ。
それを自分でもある程度自負しているから、女相手に徒競走を繰り広げ、その上なかなか掴まらないと言う状況にイライラは最高潮に達していた。
怒鳴り声も暴走族専門の警察官を超えていたかもしれない。
( 怖い〜〜〜しつこいーっ!!!)
はもう体力の限界に来ていた。
へとへとで、口の中は砂漠状態。
4月だと言うのに、体は内面から熱を発して汗だくだった。
休憩したい。
休憩したいがしかし掴まったらあの鬼の会長に何されるか。
先ほど耳に飛んできた怒号の中には『退学』という言葉もあった。
・・・掴まってたまるか。
(くっそーーーー!)
そうだ、女子トイレだ。
あそこに逃げ込めばさすがの会長も追ってはこれまい。
そうだ女子トイレはどこ
「刻むぞ!」
(きっ刻むってっ!)
とその時、左足がするんと揺れた。
「ひゃっ!」
すべった。
小さく悲鳴をあげて何とか体勢を立て直すが、その減速したスピードは神田が追いつくには十分だった。
それにずきんと痛みが左足から上へと走る。
(っ掴まる・・・!)
丁度目の前は階段だった。
は階段をおりようと足をかける。
「てめぇ!」
声がすぐ後ろだった。
もう手を伸ばせば会長は私を捕まえられるのだ、と知る。
そして腕をすごい力で乱暴に引っ張られた。
からだが半回転する。
目の前に会長がくる。
「っ!や!」
とっさにはその腕を振り払ってしまった。
体がぐら、と後ろへ傾く。
の目線は天井に向き、髪が重力に反動して上へ向かってなびく。
すべてが小説のように、スローモーションに見える。
今の状況を整理しよう。
体は階段をおりようとしていて、そして突然腕を後ろに引っ張られた。
振り払ったはいいが、バランスを崩し、案の定は。
「ぎゃぁぁっ!」
階段から落ちた。
「っぶねぇ・・・」
「は・・・・え?」
真っ白な天上が見える。
痛くない。
左足はずきずきと痛むけれど、来るだろうと予測していた痛みがない。
は目をパチパチとしばたかせた。
そして背中の温もりを感じてさらに混乱する。
それもそのはず。
は神田を下敷きにしていた。
神田は踊り場で上向きに倒れており、はその上にこれまた天井を向いて乗っている。
「え・・・え、あ!」
そのことに気が付き、は慌てて神田の上から転がりおりようとした。
が、神田の腕がの腰にしっかりと巻きついていてそれが叶わない。
「か、会長!?離してくださ」
「逃げる気か?」
「そ、そんなこと!」
「にがさねぇぞ・・・・」
耳元でどすの聞いた声で言われては心底おびえた。
顔が見えない分、余計怖い。
何でこんなに怖いのだ。そして何でこの怖い会長に関わってしまったのだ。
は手足をばたつかせた。
「に!逃げません!」
「嘘付け」
「わ、私左足ぐねったみたいなんです!だからそもそも逃げられません!」
本当だった。さっきから左足の痛みは波打つようにずっと続いている。
悲鳴のように叫ぶと、会長の腕がすっと離れた。
それがあまりにもあっけなく、そしてすんなりしていたものだから、は反応に一瞬遅れる。
神田はその一瞬の間に片腕を緩くの腰に回したまま、ひょいと体を半回転させて立ち上がった。
「うわぁ!」
バク転をするかのように、目の前が縦横無尽に回る。
気が付くと、は神田に抱えられていた。
それもお姫様だっことか、そういったロマンチックな状況ではない。
まるでバスケットボールを片手で腰に当てて持っているような格好の会長。
そのバスケットボールのポジションには置かれていた。
神田の小脇に抱えられたは神田を恐る恐る見上げる。
「か、会長?!降ろしてくださ」
「怪我をしてるならなぜ早く言わねぇ?!」
「ひぃ!」
言葉を遮って神田はそう怒鳴ると、猛然と走りだした。
そのスピードはを片手で抱えているとは思えない。
その不安定に揺れる恐ろしい状況で、は悲鳴をあげながらべそをかくしか出来なかった。
        
ヒロインさん「ひぃ!」が口癖になりつつあります。
けい
06,09,02(08,04,02改)
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