は人のような物体が見えた瞬間、窓の下に飛び込むようにしゃがみ込んだ。
(だ・・・誰?!なんで?!っていうか私の歌聞かれた?聞かれたよね?!)
羞恥と焦りでの顔は瞬間湯沸かし機のスピードで熱くなり、冷や汗もつうと頬を伝う。
今は全校の全員がホールに居るはずなのに。
どうして他に人がいる?
(・・・・・用務員さん?)
その人物を確かめるため、は窓枠に鼻の頭あたりまでをそおっと覗かせる。
ばちっと、その人物と目があってしまった。
残念なことに、は切れ長の目に見覚えがあった。
そしてその目から入った情報は瞬時に脳に送られ、の知っている物との称号に入り、そしてその人物をパンとはじき出してしまった。
(ひぃ!)
は再びしゃがみこんだ。
(かかかかかか会長じゃない!なんで!?)
『なんでここに?!』『聞かれたよね?!』『恥ずかしい!』と言う三つの言葉が、の頭の中で延々と周りつづけている。
それから、あの切れ長の目と、なびく黒髪も。
+School Days+
#13 もぐら叩き
(今・・・誰か居たよな?)
神田は眉間に皺を寄せ、その方向を凝視した。
音に誘われてやってきたところで、音の根源を見つけたところだ。
あれは、一年の教室。
その窓際に誰かが立って歌っていた。
上手い下手で言えば微妙なところだ、と神田は思ったが、それ以上にその言語が気になった。
日本語ではない。
確証はないが、英語でもない、と思う。
そんなことを考えながら見ていた窓辺に、何かがもそもぞと出てきた。
鼻から上だけをつきだした生徒。
きょろと視線がさまよって、目がこちらを捕らえた。
神田の目とその目が糸でつながれたかのように、視線がぶつかる。
その目に、神田は見覚えがあった。
半分だけの顔でも十分に特定できるだけの面識がある生徒。
(っ!あいつ・・・!!)
すぐにひょいと引っ込んでしまったが、それは確かに神田の脳裏に焼きついて間もない人物だった。
名前は・・・忘れたが、あれは一年だ。
今は全校生徒が一年生のためにホールに集まっている。
のに、その主役である一年があんなところでサボって居るというのはどういうことだ。
(ふざけやがって・・・!)
今度こそ、罪状は明白。
神田は『会長』と言う職をまっとうするため、目を吊りあがらせて校舎の階段へ向かってかけだした。
(ど、どどどどどどどうしよう!)
先ほどアイコンタクトで完全に見つかってしまったことは明らかで。
このとおりサボったことがばれれば怒られることは当然で。
ましてや相手は生徒会長だ。
それも、美人で怖い、あの。
ふとこの間の恐ろしい顔が思い浮かぶ。
逃げる、叱られる、と言うフラグがの中で点滅し、は迷い無く逃げる、と言う選択肢を選んだ。
逃げれば後で何とでも言い訳は立つ。
(とりあえず、逃げる・・・!)
は教室を飛びだした。
そこで聞えたタタタタタタタと言う音に嫌な予感を伴う。
口元を引くつかせながら見ると、嫌な予感は大当たり。
「おい!!そこの一年!!!」
会長がこちらめがけて廊下を疾走している。
その表情は憤怒。
(ひぃ!)
は恐怖に駆られるように、会長が居る方とは反対側の方向へ向かって駆け出した。
背中に会長の怒号が飛ぶ。
「ちっ・・待てコラ!!!!」
そのころのラビはと言うと・・・
「ほらぁ、ラビ君。あーん」
「・・・・なぁ、俺、ちょっとトイレ・・・」
「あら、何か聞えたかしら?」
白々しく言うその女生徒。
先ほどから何とかかわして逃げようと試みてはいるのだが、どうにもこうにも、上手く行かない。
それと言うのも、この女生徒が上手く体をずらし、逃げられないようにしているのだ。
ラビは生来のフェミニストが災いしてか、つきとばして逃げるという選択肢を選びかねていた。
どうしたもんかと明後日の方を見て考えていたその時、ふと彼女の笑みの種が変わる。
「・・・私たちの誰かを生徒会に入れて下さる、ということをお約束してくださるなら話は別ですわよ?」
ラビはその囁くような声色に、ゆっくりと彼女を見た。
相手はあいも変わらず美しい顔のつくりで微笑んでいる。
ラビもまた微笑を浮かべ、嘯くように首をかしげた。
「・・・私たちって?」
「あら」
女生徒は上品に口元に手を添える。
「おかしいですわ。ラビ君ならとっくの昔にご存知だと思っておりましたのに」
知っているのでしょう?
私たちを。
「ま、確認さ」
ラビは言って立ち上がる。
軽く遮るように出された肩を押しのけて。
「きゃっ!」
彼女の椅子ががたんと音を立てる。
「ごめんさ」
一言そう言って、ラビはスタスタとその場を離れる。
その様子に、女生徒は桜色の唇をかみ締め、その磨き上げられた爪で拳をギリと握る。
「・・・あきらめませんわよ?私たち」
低く低く呟く声は、ラビに聞こえたのか、どうか。
        
あんまりシリアスな展開を期待しないでいただけるとありがたいです。
けい
06,08,27(08,04,02改)
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