はそこで軽く5分は悩んだ。
そしてぱっと目を見開くと、くるりときびすを返す。
振り返った先に居た人の手をがっしと掴んで、は目をむいて迫った。

「お願いです!後生です!くじ交換してくださいいい!!!!」

丁度その先に居た二年生はその鬼気迫る様子に思わずコクコクと肯く。
その様子を見、は急いでくじを差し出した。
二年生が発作的に受け取ろうと手を持ち上げる。
が、その手をやんわりを抑える手が横から伸び、それをすっと抜いた。

「え?」
「『67』のくじ・・こんなところにあったの」

思わずそちらを見たとその二年生は固まった。








+School Days+

#11 奪われたくじ










黒髪の、それは綺麗な日本美女が口元に弧を描いて立っていた。
その美女は今しがた横から掠めとった『67』のくじを改めて確かめると、それを大事に折りたたんでポケットに閉まった。
その様子があまりにも自然であったので、は待ったの手をかけることが出来なかった。
そして綺麗な桜の唇がかっと開いたかと思うと、高笑いが響き渡る。

「ほほほっほほっほほ!!これで神田会長は私のもの!!ほほほっほほ!!」

その笑い声と共に、と二年生を無視して優雅に去っていった美女。

今時笑い声に「ほほほ」は古いだろう。
そういった突っ込みをすることも忘れ、あまりにも濃いキャラの登場にはただその後ろ姿を見送ることしか出来なかった。












「なぁカイチョー、俺らのテーブルの子、遅くねぇ?」
「知るかよ」

椅子をギッと傾けて問いかけるラビに、神田はイライラいした様子で突っぱねる。
そんな様子の神田に、ラビはいつもの短気がまた出た、と少々あきれつつも肩をすくめるにとどめた。

そして気を取り直してキョロキョロと周りを見渡す。
「俺どうせなら別嬪さんがいいんさ。目がぱちっとしててサクランボみたいな唇でボディーも、こう、ぼんっきゅっぼんって感じの」
「神田くぅーん!」

ラビの妄想を遮るその声に、神田もラビも肩が跳ね上がる。
聞き間違えるはずがない。
今まで何度奇襲をかけられたことか、この声に。
しかし、まだ弁解の余地はある。
もしかしたら声だけそっくりさんの新入生かもしれない。

ラビも神田も、冷や汗を一つ。
そして違うことを一心に祈りつつ、振り返った。

「私『67』だったの!これって運命なのかしら?」

キャッと可愛らしく言う女生徒に、神田もラビもあからさまにいやな顔をした。

「・・そのくじ、見せてください」

女生徒はあっさりとそのくじを神田に差し出す。
神田はそれが偽造であることに賭けてみるが、その賭けは失敗に終わる。
正真正銘、生徒会印の入ったくじだ。

「・・・おい」
「・・・なんさ?」
「お前、言ったよなぁ?『あいつ等とはあわねぇようにした』って」
「い、言ってないさ!ユウちゃんがそう取っただけさ!」
「うるせぇ!何の役にも立ってねぇじゃねぇか!この糞兎!」

小声で言い合う神田とラビ。
が、美女の美声がそこに割り込む。

「何お話なさってるの?か・ん・だ・君」

神田は横から何者かにすり寄られてぞくっと鳥肌を立てた。

(い、何時の間に横にきやがった!)

ラビと口論してる間に、ちゃっかり『67』の席に座り、なおかつ神田のほうまで椅子を引っ張ってきたのだ。

「ねぇ神田君、おしゃべりしましょう?」

言って、最後に極上の微笑を浮かべる女生徒。
その微笑みは男の誰もが呆けるであろう笑みであった。
が、神田は椅子を蹴って立ち上がる。

「おい、ラビ。お望みの女だ」
「は?」
「さっき言ってただろうが。おまえにゃぴったりだ。俺は邪魔しねぇ様に席をはずす」

神田はそう吐き捨ててテーブルを後にする。

「え?ちょ!ユウちゃん!」
「どちらにいかれますの!」

しかし神田はその俊足で既にホールの入り口に差し掛かっている。
もはや追いかけることはかなわないと悟った女生徒は、そこでターゲットを変えた。
くるんとラビに向き直ると、その手をやさしく持ち上げる。

「ラビ君、私が食べさせて差し上げてよ?」

逃げ遅れたラビはその微笑を前にして、顔をひくつかせるしかなかった。












「はーあ」

は深くため息を付いた。

あの後結局、の手元には何も残らなかった故、当然二年生とくじの交換など出来よう筈も無かった。
優しいその先輩はそのくじをあげると言ってくれたが、それはさすがに悪いので遠慮した。

そして今、は教室にいる。

サボろうにも、まだあまりこの学校には詳しくないし、教室以外に場所が思いつかなかった。
先生もホールに集まっているせいか、教室どころか校舎自体ががらんとしている。

窓を開けて深くため息を付けば、それを押し返すように柔らかい風が顔を撫でた。
まだお昼が過ぎたばかりで、空には風に引っ張られて薄くなった雲が散らばっている。

はふと窓から体を離し、すたすたと廊下へ出た。
案の定というか当然と言うか、誰も居ない。
無機的にまっすぐな廊下。
その様子が、なんとなく、あの入学式の日を思いださせた。


「・・・・あの会長と同じテーブルに座ることを考えたら、まだましだよ」

憤怒の形相の会長を思いだし、は一人そうごちた。













けい

06,07,23(08,04,02改)