「し、死ぬ・・・」

けふ、とは息を吐いた。
神田は横であきれ果てた目でを見上げた。


の皿は空っぽ。
先ほどまで山のように食べ物が盛り付けられていたのに、だ。







+cat poison+































「おまえ、馬鹿か?」
いつもの中傷でも馬鹿にしたわけでもなく、神田は純粋にそう思った。



は疲れたようによたよたとその場所を離れると、再びバルコニーに出、その手すりに腰を下ろした。
そして押し出すように言葉を搾り出す。

「きもちわるい・・・」
「そりゃあんだけ食べりゃ気持ち悪くもなんだろうが!」
「・・怒鳴らないでよ」

自分が悪いと分かっているがゆえ、は上手く言い返せない。
神田はトンと地面を蹴っての横に座ると、べしっとの腕をはじいた。

「いたっ!何すんのよ!」
「あのなぁ、そんな状態で事が起きたらどうするつもりだ?!」

動きもままならない状態。
そんな状況下で、満足に仕事ができようハズもない。

「俺は助けねぇからな!自業自得だ!ったく」
好きなだけ言うと、神田はプイとそっぽを向いて寝そべった。


「・・・だって動くんなら腹ごしらえ、必要かと思ったんだもん」
はうつむいて低くそう言った。


腹が減っては戦は出来ぬ、とは食事のいくつかに手を伸ばした。
それが予想以上に美味しく、どんどんあれも、これも、という感じで手が出たのだ。


チラ、と神田の様子を伺うが、何の反応もない。
「・・・任務は、ちゃんとこなすよ」

上を見上げては息を吐く。

大分おなかの張りはなくなってきたよう。
それを見はからったように、神田はすっと立った。

そして音もなく歩き出す。

「・・・ユウ?」
「黙ってついて来い」

振り返りもせずそう言って、神田はそのまま歩いていった。

その有無を言わさず、という感じの言い方が気に食わないだったが、怒られた側の身としてはついていくほかない。
は立ち上がるとおなかを一撫でして歩を踏み出した。















「ユウ」
「んだよ」

返事をするが、神田は歩みを止めはしない。

「何でこんなところ歩くの」

の発言に対し、神田はぴたと止まった。
そして振り返ると飛び掛らんばかりの勢いで吼える。

「てめぇは真性の馬鹿か!」

もはや慣れてきた神田の怒鳴り。は平然と返す。

「だってこんなとこ歩いてたって、下見ぐらいしか出来ないじゃん」
「下見をするために歩いてんだ!」
「あ、そうなの」


二人はバルコニー下の迷路庭園を歩いていた。
庭師が毎日丁寧に手入れをしているであろうその道は、ヒールのある靴でも歩くのに難儀しない。

月明かりの下、二人のサク、サクという足音だけが響いていた。

は歩きつつ周りを見回す。

より30センチほど高い迷路の壁の役目を負っている垣根。
迷路庭園は屋敷の中庭のようになっているようで、屋敷全体の構造がぼんやりと分かってきた。

窓から窓へどうすればわたれるか。
煙突の数から、部屋構造を予測。

母屋と思われる南側には明りはない。
メイドたちのその場所からは引いて、パーティーの給仕に回っているようだ。

(ふーん。好都合)

見解を終了し、はただ、散歩を楽しむことにした。
見上げれば空には月と星があるが、やはり教団から見るほうが綺麗で、何の感慨もわかない。


前を歩く黒猫に目を移し、はぼんやりと、思った。



(神田ユウ、なんだよね・・・)

あの綺麗な、短気で、少しお馬鹿の、羨ましい位の黒髪の、日本人。



当たり前のこと。
知ってたこと。

(なんか・・・)

なんだろう。

分からない。





サク、サクという足音が響く。




神田の顔と、黒猫になってからの記憶が交互に頭を回る。



(・・・あれ・・・?)



どうしよう。


なんだろう、これは。







(・・なんで?)


自分でも分からない。
でも、その気持ちははっきりと分かっていた。





(『嫌』・・・?)



この一ヶ月、それなりに仲良く暮らしてきたはずだった。





この前を神田が歩いて、自分がその後ろを歩いているという状況下で、は知らず唇を噛んだ。





















ヒロインちゃん、神田に嫌悪感・・よりはまだ弱いかな。そういったものを感じています。


けい



06,06,03