「任務・・ですか?」
「うん。ごめんね君」
「どういうことだコムイ!」
「ちょっとユウ!」

吼えて飛び掛ろうとした猫を、は何とか押さえ込んだ。






+cat poison+











神田を預かって早一ヶ月。まだ神田は元の姿に戻っていなかった。
(嫌がる神田を無理やり)一緒に寝ることにも慣れ、ちょこちょこ些細な騒動はあるもののとりあえずは平穏を保っていた。
そんなある日、コムイの執務室に呼び出された。
神田は「解毒薬が出来たのか?!」とルンルンで、は「そんなに上手くいく?」と不審顔でここにこうやってきたのだった。

コムイは相変わらず書類に埋もれ、コーヒーなんか飲んでいる。
個人の執務室・・そう、神田があの薬を飲まされた執務室であるから、人はいなかった。





暴れる神田を両腕で抱え込んだはコムイをきゅっと見上げる。

これから部屋に帰ると、きっと期待していた神田に八つ当たりされることだろう。
そう思うとこのめがね男に対してなんとなくふつふつと怒りがプラスされる。

「でも、ユウの言い分ももっともですよ。任務は回さないって言ってたじゃないですか」
「だからごめんってば。エクソシストが足りないんだよ」

眉尻を下げるコムイに、はなんとも言い返せなくなってしまった。



は今、猫になってしまった神田の世話と言うことで任務は免除されている。
ということは必然的に、エクソシスト二人を教団で遊ばせているということになるのだ。

死と生の瀬戸際で戦っている仲間を思うと、胸も痛む。


私は任務に行くべきだ
いや、行かなければ

思いがわきあがってきた。

しかし、その時ふと手元を見る。
黒猫。

「・・・・この猫(こ)、預かってくれるなら行きますけど?」
首根っこを掴んでだらりとコムイの目の前に突き出す。

「おいこら!殺すぞ!」
ばたばた暴れる神田。
しかし一ヶ月もたてば慣れたもので、自身にはどう暴れても傷はつかない。
そしてその爪は目の前に凶器を突き出されたコムイの眼鏡をかする。

「うわっ!それは無理!」
避けながら言うコムイ。
「お願いしますよ!」
「無理!・・・・っそうだ!一緒に行って来て!」

「「はぁ?」」
見事に二人ははもった。思わず手を離してしまった
神田はたんと器用に机に降り立つ。

「いいじゃない!神田君の世話できるのなんて君しかいないし!」
「猫連れての任務なんて聞いたことないですよ!」
言い返す
しかしコムイはたて板に滝の勢いでべラべラとしゃべりつづける。
「大丈夫!神田君は体はこんなでも元エクソシスト!」
「元とはなんだ!」
牙をむく神田をコムイは綺麗に無視し、ばっと芝居がかった調子で手を広げる。

「エクソシストの任務は重々承知!それに猫なら身軽!これ以上のパートナーはいないよ!」
『パートナー』と言う発言に、はぴくっと止まった。
嫌な予感がする。
汗がたらりと頬を伝う。

「・・・もしかしてファインダーつけない気じゃ・・?」
「グッドラック!」
ぐっと親指を立てるコムイの手を、神田はバリッと引っかいた。



















「はぁ・・・」
その苦悩を表現するかのように、は長い長いため息をついた。
気の抜けたように座席の背もたれに体を預けているは悲壮な顔をしていた。

ここはいつもの一等車両。
窓を流れる景色は一定、且つ単調。
その上、今度は船を乗り継いでいかなければならないらしい。


横に座っている猫は丸まっている。
不貞寝しているようだった。


このコンパートメントには他には誰もいない。
いつも扉の前に立っているファインダーも、今はいない。

本当に二人っきりで送り出されてしまった。
エクソシストもファインダーも足りないと、後で渋い顔をしたリーバー班長に言われたせいか、結局承諾してしまったのだ。


しりをまくられるようにして出てきたので、トランク一つしか持ってこれなかった。
あと任務に必要だといわれ、渡された小さなトランク一つ。

憂鬱さを振り払うように顔を振って、はトランクに手をかけた。
「確か中に今回の任務の書類が・・・」
ぱちんと留め金をはずしてトランクを膝の上に乗せ、開けてみた。

一番上に乗っているのは確かに書類。
それをカサリと持ち上げて、その下にあったものには息を呑む。

蒼いシルク。
思わず手を伸ばして持ち上げてみると、それは待ち受けていたかのようにするりと広がった。

光の加減によって微妙に色が変わる布でできた蒼いカクテルドレスだった。

「えぇ?!」
一人素っ頓狂な声を上げた。
あわててトランクを覗くと、ご丁寧に靴とポーチ、そしてリボンが入っている。

「何よこれ!」
まさかこんなの着て任務じゃぁ・・・?
・・・・入れ間違えたんだ、きっとそうだ

そう完結して、書類に目を向け、固まる。
一行目に記された字に2、3度目を通して、顔を覆い思わず座席の横に倒れこんだ。

「・・・・嘘でしょ・・?」





『ドレスを着て、パーティーに潜入。パーティーの主催者のコレクションの中にあるイノセンスを回収』
















任務で色々とやります。


けい



06,03,19