は目の高さに、自身のブーツをつまみあげた。
すねあたりに、斜めに三本線がくっきりと刻まれている。

それを見てため息をついて、はくるりと首をまわし、今度はベッドを見た。
毛並みもつややかな黒猫がくつろいでいる。

くわ、と大きくあくびをする黒猫。
大きく開いた口にはびっしりと牙が生えている。
その牙で、先ほど蕎麦を食べだところだ。
もっとも、お箸を使えないがために、がいちいち汁につけて食べさせたのだが。
おかげで先ほどまで飛び散った麺汁の処理に終われていた。

そしてその前足には爪。

はもう一度ブーツを見た。
その三本線と黒猫の爪が一致することを再確認。

(・・・・・リーバー班長に会ったときか)

もうこのブーツは履けない
いや、もうブーツはどうでも良いからこの黒猫をどうにかしてほしい

見ている分にはいい。良すぎる。
でも・・・・・


は目じりに涙がたまるのを感じた。












+cat poison+





、そう言えばおまえ、俺の服どうした?」
「服ー?」
だるそうには返す。
実際、蕎麦をとりに行き、神田に食べさせ、掃除までしたのだ。
疲れきっている。

「あー・・・ハンガーに吊ってそこ掛けてあるでしょー・・・」
「明日クリーニングに出しとけよ」
「・・・・・はい」
もう口応えする気も失せた。

「・・・・・・神田、私お風呂行って来る」
一時凌ぎでしかないが、とりあえず一人になることが出来、心身ともに癒されるのはもうお風呂しかない。
「さっさと帰って来いよ」
「なんで?」
「なんか用があった時困る」
「・・・・さいですか」

顔を引くつかせたはバスタオルと着替えとを手にとった。
小間使いかよ。
そう毒づきつつ。












体を洗い終わったは、湯気のたつお風呂に足のつま先だけちょんと入れてみる。
そしてしばらく足の先を見ているが、どうも無い。

どうやら今日はあのコムイ特製入浴剤が入っていないらしい。

ほっと息をついて、は髪をまとめなおし、そぉっと湯舟の中に体を沈めた。
温度は人肌より少し高め。
にとって丁度良い温度だった。

ポカポカと体が温まってくる。
「あー・・・気持ちいー」
思わずは声に出す。

体が芯から解きほぐされるような感覚。
だからお風呂は好きなのだ。

その時、脱衣所とお風呂場をつなぐドアが音を立てて開いた。
オクターブ高い軽やかな声が聞こえる。
「あら、今日は入浴剤無しなんだ」
「・・・あ」
はその人物に目を見開く。
「あ、食堂の・・・・」
先ほど食堂であった女の人。
その人はを見るとにこりと笑った。

「ご一緒していいかしら?」







「猫ちゃん、可愛いでしょう?」
「え?」
共に湯舟につかって約30秒。
が出るタイミングを図れずにいると、女の人が話しかけて来た。

「食堂で抱いてたじゃない。あの猫(こ)」
「あ、あーかん・・・ユウですね」
あわてて言い直した。
危ない危ない。


「可愛いも何も・・・。最悪ですよ」
「どうして?綺麗な猫ちゃんじゃない」
驚いた風で言い返す女性。

は手を出すと、指を一本一本折り出した。

「だって・・・人使い荒いし、プライド高いし、うるさいし」
「人使い?」
「あ、いや、あ、あれです、ホラ、手がかかるって言う」
何とかごまかす
「いいじゃない。猫ってそういうものよ?」
「そうですか?」
「えぇ。マイペースで気位が高くて。嫌なものはいや、好きなものは好きってはっきりしてるの。だからうるさいのよ、きっと」
女性はクスクスと笑って、肩にお湯を当てた。
は、この女性は本当に猫が好きなんだな、と思った。
それと同時にうなだれる。
「・・・うまくやっていく自信ないんです、ユウと」

猫は嫌いじゃない。むしろ好きだ。
でもあの神田猫とだけはうまくやっていけない気がする。

「猫は慣れるまでには時間がかかるわね。」
「・・・マジですか?」
いよいよ本気で駄目かもしれない。

「でもあなたなら大丈夫よ」
「私?」
「だってホラ、食堂で、あの猫ちゃんあんなになついてたじゃない」
あれはただ単に逃げ出し口として私がいただけのような気がする。

「さっきも言ったけど、猫って本当に好き嫌いが激しいの。充分好かれてる証拠よ」
「はぁ・・・」

そういえば、神田も好き嫌いが激しい。いや、嫌い、が激しいといったほうが正しい。
そんな神田が私に世話をさせているということは・・私は神田に嫌われてはいないのだろうか。

「好かれてるわ。自信を持っていい」

神田に好かれてる?

分からなくて、は首をかしげた。
「そうですかねぇ・・・」

「えぇ。・・そういえば、まだ飼い初めなの?」
「え、えぇ、まぁ」
神田とは面識はあるが、飼い初めは・・最近だから頷いて良い筈。
女性は楽しそうに声を弾ませた。
「じゃあ良い事教えてあげるわ」
「なんですか?」
「あのね・・・・」




























お久しぶりの更新すみません。
ヒロインちゃんは神田のことを猫だと思ってるんです。
でも中身は男だから、こういう葛藤が生まれるんですねー。

神田も男だということで(何)

けい



06,03,12