「――――チッ!」
「だぁぁぁぁぁもう!!!」

次々と、それこそ湧いてくる勢いで現れる敵。
2人で応戦するが、手加減が原則なのでどうにも神経を使う。

また横から飛びかかってきたゴードン邸の私兵に、神田は先ほど奪った剣を振り上げる。
軽く手を薙ぐが、切れ味が悪いせいか引きずるような感覚がある。
これでは相手もいたかろう。

「ったくなんだこのなまくら刀は!」
「そりゃ六幻みたいにはいかないでしょっ!と」

が神田に切られてもなお向かって来た兵の頭を殴った。

神田は相手の怪我を気にする性質では無いが、自身がこんなものを武器として扱うことにさらに苛立ちがつのるらしい。
はイノセンス用の水があと一本ということで、神田の後ろに回り、たまに拳で補佐している。

「・・・でも体力的にちょっときついわね」

神田はの息が荒くなって来るのを感じていた。
一人抱えて戦うのはわけないが、ここには愛用の武器もなければ動きにくい服、狭い通路に滑りやすい床と不利な要素が揃っている。
加えてぞろぞろと湧いてくる雑魚兵だ。

「・・・くそっ!」

こんなバカな任務で捕まるなんて間抜けにもほどがある。
それに、自分には戻らなければならない理由があるのだ。
そう思い、神田は動きを速めた。
















+cat poison+













「・・大丈夫か?」
「ご、ごめん、はっはぁ、はぁ、はぁ、ごめ、」
「しゃべるな」

足がもつれたに、限界か、と神田は横にある部屋に駆け込んだ。
座り込んだが息の合間、とぎれとぎれに謝り続ける。
神田は少しでも楽なようにと壁にもたれていたを包むようにして座り込んだ。
息を整えながら、は素直に神田の胸に頭を持たせかける。

(・・・どうすればいい)

神田は考えを巡らせる。

この部屋もすぐに見つかる。
現に廊下ではどたどたという音と兵たちが自分たちを探す叫び声が聞こえているのだ。
が、出口にはまだ遠い。
ゴーレムも今回の任務には、ない。

・・・を先に、逃がすか。
いや、ひとりで逃がして何かあったらと考えるとそれはだめだ。
では

(どうする―――)

「こちらに抜け道がありますけど、いかがですか?」

声にはじかれ、神田とは身構える。
神田が剣を向ける先には、ろうそくを持ったシーナが立っていた。

「どうされますか?」
「なっ!・・・お前、」
「だますつもりはありません。・・・と言っても信じてもらえなければ仕方のないことですが」

シーナの表情は静かだった。
しかしそのろうそくに照らされた顔には違和感を覚える。

「・・・抜け道、とか言ったな?」
「ええ。屋敷向こうの森の入り口にある枯れ井戸に出ます。昔の通路で、旦那様はご存じないかと」
「・・・俺たちを逃がして、おまえに何のメリットがある」
「メリットデメリットの話でこうやっているわけではありませんから。・・・・いかがしますか」

シーナは軽く手を掲げた。
ドアの向こうではなおも足音が聞こえる。

「・・・」
「ユウ」

が神田の服を引っ張る。

「・・なんだ」
「行こう。抜け道」
「っ!もし罠だったらど」
「どうせここにいても脱出する見込みは少ないよ。なら新しい道があるならそっちに行った方がいい。たとえ白か黒か、わからなくても」

この人の目は、先ほどとは違う。
にはそう感じたゆえの、苦肉の策だった。

神田はの眼を見る。
小さなその瞼に軽く口付け、必ず助けると誓う。

「・・・案内、してくれ」
「かしこまりました。」

シーナが恭しく頭を下げた。
ついで壁に手を当てる。
と、石のこすれる音がして、人一人やっと通れるほどの小さな穴が見えた。

「こちらへ。まず抜け道のある部屋まで向かいます」















シーナはろうそく握って一生懸命先回りして立ってました。
ひとりで。


けい

08,10,05