後ろには5人の男。
いずれも屈強な体に武装し、手にはピストルやらショットガンを持っていた。
それに自信がついたのか、ゴードン卿は楽しそうに笑い高らかに宣言する。

「ほっほっほっほっ!!もうお前たちは標本にもしてやらん!逃がさんぞ!」
「・・・お前どこで服着たんだ?」
「だ、だだだだ黙れ!!」
「ここにいたときはパンツ一枚だっただろうが」
「だだ、だ、黙らんか!!!」

後ろに控えさせた部下に神田のセリフを聞こえないようにするためか、ゴードン卿は地団駄を踏んで大声を出した。
その有様があまりにも幼稚で、は思わず噴き出す。

「く、くそっ!まぁいい!お前らはこの部屋から逃げられんのだからな!!」

ゴードン卿が片手をあげると後ろの男たちが銃口を室内に向けた。
それはたしかに神田とに向いている。

「腹を狙えよ。苦しんでもがいて死なせてやれ!」

ゴードン卿の指先が動いた。
神田は身構えた。











+cat poison+










と、突然は叫んだ。

「まってくださいゴードン卿!」
「なんだ?命乞いなんてもう遅いぞ!」
「わかっております。もう死ぬことは自明の理。ですが死ぬ前に一つゴードン卿にお聞きしたいことがあるのです。私のような凡愚に機会をお与えくださいませ」

よよよ、としなを作ってしゃべり始めたに神田は眼を丸くする。
構えていた腕がぶらんと下に垂れさがった。
何を言い出すんだ、こいつは。

「うるさい!そんな事など知らん!」

なおも興奮状態冷めやらぬゴードン卿の様子に、はばっと床に膝をついた。

「どうかゴードン卿の海よりも深い御慈悲の心で、どうか!」

うるうると目を潤ませてドア口にいるゴードン卿を見上げる。
と、ゴードン卿はまんざらでもない、といった顔になった。
しめた、は心でガッツポーズをし、とどめに「どうか・・・」と小さくつぶやくように言った。

「・・・まあ、そこまで言われて答えんこともないぞ」
「ありがとうございます!!・・・この部屋はゴードン卿の偉大な研究の部屋なのですよね?」
「そうだ。世界の英知が詰まっておるのだ!」

高らかに笑うゴードン卿をよそに、はなおも落ちんばかりの眼を向ける神田に目配せをする。
が、神田にはの意図がつかめない。

「では、何の研究をなされておられるのですか?」
「惚れ薬だ!!!」
「「・・・は?」」

神田とは同時に口を大きく開けた。

「飲んだ後に一番最初に見た人に心を奪われる一般的な惚れ薬にくわえ、どんな女でも嗅げば私の虜になる香水、食べ物に混ぜやすい粉末状にするなど、研究に研究を重ねたものがここには並んでおるのだ!!」

ビッとゴードン卿のさす方向には、確かにガラス器具の中に入ったどピンクの液体が見える。

「その成分はだな、まずガラナエキスを」
「もういいですよ。」
「なぬ?」

得意げにしゃべりだしたゴードン卿の言葉を遮って、は懐から試験管を取り出す。

「――――sbalzare(急騰する)」

試験から水滴がはじけとび、ゴードン卿を打ち付けた。
間抜けな叫び声をあげながらすってんと転んだゴードン卿を見、後ろに控えていた男たちは引き金を引く。

「riflesso(反射)!」

すかさずは腕を振りあげ叫んだ。
ゴードン卿を襲った水滴がひと塊りになり男たちの前に立ちはだかる。
銃弾は跳ね返り、男たちは悶絶しながら床に伏す。

「・・・よし。いこう」

きゅっと試験管を締め懐にしまったは歩きだした。
神田もあわててそれに続く。

「・・・ユウの言うとおり、ガセだったね、これは」

はゴードン卿の背中をしっかり踏み、ついで男たちをひょいひょいとまたぐ。
神田は途中男たちの腰をまさぐり、剣を拝借し、先を歩くの横に並んだ。

「・・・おまえ、まだイノセンスがあるとか思ってたのかよ」
「・・・実験室しっかりしたものだったし、私を閉じ込めた装置はうちの化学班にも相当する技術に見えたから、もしかして、と思ったけど」
「・・・にしてはしょうもねぇもん作ってたな」

神田がそう言うと、はがくりと肩を落とした。
その頭をポンポンとたたいてやると、は眉をひそめる。

「うん。演技までしたのに、馬鹿みたい」
「俺の言葉信じねぇからだろ」
「だってあんなに機材揃ってたんだよ?!化学式とかなんかすごかったし!!」
「賢い奴ほどバカってのはうちの化学班のトップ見りゃわかるだろうが」
「そーだねー・・・・はぁ」
「・・・おら、いくぞ」

の手を取り、神田は走り出した。
そうだ。
もうここにいる必要はない。


帰ろう。


は神田の手を握り返した。














何気に手をつないじゃう神田。


けい

08,10,05