「・・・いつまでやってんだよ」
「だって・・ないんだもん・・・っと。あ、ここかな?」
「・・・」
「・・・違った・・・あーっもう!!!どこよイノセンスは!」
「知るかよ」
「ユウ!これはあんたの任務でもあるんだからね!あんたも探しなさいよ!」
、おまえほんとに鈍いな」
「は?!何それ!」
「あのネタがガセだった、とか思わねぇのか」
「・・・え。・・・まさか、そんな」















+cat poison+










は眼を見開いた。
ついで口元に手を当てる。
冷や汗がツ、とこめかみを伝う。
そんなを見ながら、神田は手にもった試験管を上着の内ポケットにしまった。

「まさか、この情報が嘘だったなんて…」
「そんな驚くことでもねぇだろ。よくあることだ」

しれっと神田は答え、横にあった椅子を軽く蹴った。
がたん、と音がして椅子が横たわる。
その音と同時には神田を見上げた。

「・・・よくあることなの?」
「・・・おまえ入団して三年だろ」
「私イノセンス回収の任務二回目これでだもん」
「・・・」

一回目が無事回収できたとすると、この事態はにとって奇異なのだろう。
だがイノセンスを回収できることの方が珍しいことを、もう何年もエクソシストの任を務めている神田は知っていた。

「探しても無ぇ。反応もしない。ガセだ」

神田はドアに歩みを進めた。
見切りをつけてさっさと脱出するつもりなのだろう。

だがにはどうしても納得できなかった。
一度目の任務の時、イノセンスあり、という情報に対してイノセンスは確かにあった。
それに裏が取れたからこそこうやってエクソシストを派遣したのではないのか。

「ユ、ユウ!もうちょっと調べてからでも!!」
「・・ここで捕まってコレクションにされてえのか」
「コレクション??」
「・・・なんでもねぇ。とにかく、行くぞ」

神田は袖をまくり、カフスボタンをはずす。

「で、でも!」
「いつあの変態親父が戻ってくるかも知れねぇんだぞ!」
「っ・・・でも、もしガセじゃなかったら」
!!!」

神田がの名前を叫んだと同時に、ドアが開いた。
もちろん、神田が開けたのでもましてやがそうしたのでもない。

「よくも私の領域を荒らしてくれたな」

ゴードン卿が暗く笑っていた。
今度は服を着用済みで。




































旦那様のクローゼットにあった服を信頼しているボーイに預けた。
彼は口も堅いし足も速い。
これで大丈夫。

シーナはそう思い、壁に背中を預けた。
自身の髪をぐしゃりと握りしめる。
整えていた前髪が数束、はらはらと落ちた。

シーナはそのまま、ほの暗い目を床に向ける。
胸元をゆるめ、ずるずると座り込み、深く息を吐く。

「・・・はは」

なぜか笑ってしまう。
かきあげた手のひらをじっと眺めると、その色がだんだん白く無機質なものに変わっていくような気がした。

認められるために今まで必死に積み上げてきたものはこの一晩で崩れた。
自分のすべては『認められるため』。

ならそれが崩れた今、『自分』は―――――

こんなに空虚な気分になるなんて、思いもしなかった。
自分はこれからどうすればいいんだろう。どこに向かって歩けばいいのだろう。


まるで鳥かごから出された鳥のように。
まるで首輪をはずされた曲芸動物のように。


自分がこの屋敷から出ていくことを決めたのは分かっている。
ただ、屋敷をでてから右へ行けばいいのか、左へ行けばいいのか。
それすらわからない。

まるで、家から放り出された子供のように。


そうか。

「・・・こういうこと、か」

自分が恐れていたこと。
『必要とされないこと』

それは自分という存在がなくなること。
自分で認識することができる唯一の『自分』さえ、薄らいでしまうこと。

「・・・」

ふとさきほどの少女と青年の顔が浮かんだ。
目的を持ち、必要とされ、認め合う2人。

―――そうなりたかった。

頬がむずがゆくて、こすると水気を感じた。
なぜか涙が出ていた。
生ぬるいその感触に、もう一度息を吐く。

そして手のひらを強く握りしめた。
痛みを感じる。
大丈夫。

ぐいと涙をぬぐうと、乱れた前髪を整える。


足を踏み出す。
旦那様は彼らを捉えるつもりだ。

ならば、自分は。

初めて選ぶ、『道』。
それは今まで彼がたどってきたのとは反対の道。
それは誰も指してくれなかった、自分で見つけてゆく道。
その道を選べば、間逆の、道なき道をたどれば、解き放たれる気がした。


たとえそれが沼地へ向かっていたとしても、きっと後悔はしないだろう。

―――彼らを逃がす。



自分が自分を必要としていた。












シーナがんばれー



けい

08,10,05