「それ大丈夫なの?」
「あ?」
「だってその変な液体浴びて元に戻ったんでしょう?もしかしたら変なことになっちゃうかもしれないじゃない」
「は?いいじゃねぇか。戻ったんだし」
「だーかーらー!今度はカエルになったりするかもしれないって言ってんの!」
「・・・急ぐぞ」
「まってまって。まずはその変な薬品のあった場所にいってサンプルを取って来るべきよ」
「・・・そのサンプルを化学班に渡すのか?」
「あら、ユウにしては頭の回転速いじゃない」
「・・・やっぱり予定変更。おら、そこの部屋入れ。犯してやる」
「ぎゃーぎゃー!!!」
+cat poison+
「おい、」
「?何?」
「イノセンスの目星付いてるのか?」
「うんっ!!っと」
息を一つ置いて、が横から出てきたボーイの腹に膝を押し込んだ。
彼が目を見開いた瞬間、ばきっと嫌な音が響く。
どすっという床に落ちるを背中に、二人はなおも走り続ける。
「とりあえず、今向かってる部屋、かな」
「・・・変な実験室のあるところか?」
「実験室?!あるの?!その部屋に?!変な液体だけじゃないの?!」
「なんでそんなに驚くんだよ?」
の剣幕に、斜め前を走る神田は振り返って怪訝な顔をする。
その神田に舌打ちしたい気持では叫んだ。
「だって実験室なんて明らかイノセンスがある所じゃない!!」
「そうか?」
「そうよ!!」
(・・・これは予想外に早く終わるかも)
は心でガッツポーズをした。
とて任務を早く終わらせたい気持ちは神田と同じ。
少し理由にずれが生じているが、この際気にしないことにする。
「その部屋、何か障害とかないでしょうね?!」
「あー・・・あると言えばあるな」
「は?」
「・・・ゴードン卿す巻きにしておいてある」
「はぁ?!」
「・・・ついでに言うと、下着姿だ」
「はぁぁぁ?!!」
まさか今自分が来ているこの服がゴードン卿からはぎ取ったものだなんて死んでも言えない神田だった。
「この部屋?」
「あぁ」
走りながら軽く屋敷の住人をのしてきた。
特に隠すなどせずに来たので、あまり悠長にしてもいられない。
「じゃ、ユウ先入って」
「?」
「ゴードン卿の下着姿なんて見たくないもん。どっか隅に寄せておいて」
「・・・」
俺もあんまり見たくない、と思いつつ、神田はドアノブに手をかけた。
ドアに身を寄せるようにして、慎重に開く。
蝶つがいの鈍い音がして、扉が開いた。
中の明かりは神田が出て行った時のまま。
しかし床に転がしていったはずのゴードン卿がいない。
「・・・」
「何?もうどっかやってくれた?」
「あの変態野郎がいねぇ」
「え?」
が部屋に飛び込んだ。
きょろと見回して、神田に顔を向ける。
「・・・逃げた?」
「らしいな」
神田がちっと舌打ちをした。
久し振りに聞くそれにかすかに懐かしさを覚えるが、そんな気分に浸っている間もない。
ゴードン卿がここに居ないということは、もう屋敷中に知れ渡っていると思ってもよいはず。
来る時にバタバタと倒してきた人たちはゴードン卿の命を受けて私たちを探していたのかもしれない。
10人ぐらいまでなら2人でも負ける気はしないが、それ以上となると殺さずに済ませるのは厄介だ。
「・・・急がないと」
「あぁ」
部屋に入り、団服の内ポケットから試験管を二本取り出す。
中に入っているのは水。
自身のイノセンスの特性ゆえ、がいつも持ち歩いているものだった。
「はい。これ中の水抜いて、その元に戻ったって言う液体探して入れて」
「あぁ」
神田は頷いて試験管のコルク蓋を外した。
はそれに背を向け、試験管やらガラス管やらが固まっている方へ向う。
「さーて。」
もちろんイノセンスも探さねばならない。
それともうひとつ。
はすちゃっと青い石を取り出した。
(これの本体も、見つけないと)
あの変なバリアーは『対エクソシスト用』だと言っていた。
ということはイノセンスに反応しているということだ。
シーナから奪ったこの石は完全ではなく、何かから削り取ったような荒い跡がある。
本体があるはずなのだ。
こんな変な石はいつ教団の脅威になるともしれない。回収しておくに限る。
それにイノセンスとともに化学班に持っていけば何かの材料になるだろう。
はじめはこの石がイノセンスかとも思ったが、のイノセンスと反応しないことがこの石は違うということを物語っていた。
(私が持っているイノセンスと反応する物体・・・)
それがイノセンス。
「よーし」
は団服を腕まくりし、ガラスの隙間に突き進んだ。
        
けい
08,08,20 |