シーナもあの部屋に転がったままの(縛り上げて猿轡をかませてある)ゴードン卿も『神田ユウ』を探しているはず。
そして猫の俺と神田ユウが同一人物とは気づいていない。
これはチャンスだ。
を助け、イノセンスを奪い、逃げる。
こう言っちゃ何だが、イノセンスはこの際どうでもいい。
が先だ。
そして余裕がなければだけつれて逃げる。
そう決めた。
がどう思っていようと、守る。
もう迷わない。
ただ、守りたいんだ。
俺はベルベッドの廊下をひた走った。
重厚なドアの前で立ち止まる。
息をつくまもなくたたくように蹴り開けると、そこには。
+cat poison+
「・・ユ、ウ・・?」
暗い部屋に、震えた声が響く。
それをの声、と判断した神田は目を見開いた。
は半裸状態だった。
髪は乱れ、ドレスは胸元までずり下がっている。
その上にのしかかっている金髪の青年、シーナは突然の来訪者に顔を上げた。
だが来訪者の般若のような顔にも涼しい顔でただ、緩慢な動作での顔を撫でる。
「彼が『神田ユウ』?」
「え?あ、や、ち、ちが」
「に触るんじゃねぇ!」
叫んで神田はベッドの上のシーナに殴りかかった。
いや、そうしようとした。
しかし
「ユウ!駄目!」
はじかれた。
火傷をしたようなこぶしを見、神田はギリと歯を噛んだ。
(バリアー?)
ここに六幻があればどうにかなったものだが、あいにく今は神田の身一つしかない。
策がない。
神田がそう思った時、シーナがゆっくりと半身を上げた。
「ここに、入りたい?」
「あんだと?」
神田の眉がピクリと跳ね上がる。
だがシーナはただ微笑んだ。
「彼女に、触れたい?」
「・・・お前、何を」
「彼女が、必要?」
「・・・・あぁ」
それを聞いて、シーナは立ち上がった。
すとんとなんのためらいもなくバリアーの張ってあったそこから降りる。
神田は身構えた。
はいどうぞ、とうまくことが運ぶわけがない。
何かあるのか、罠か。
神田は頭をフル回転させた。
だがその答えはシンプルなものだった。
「私に、勝てましたら」
言ってシーナは半歩を引いた。
「ちなみに私の使うのはカポエィラです」
「・・・俺は東洋拳だ」
神田も半身を引き、腰を落とした。
とりあえず何か武器を出す様子は見受けられない。
だが、自分の使う術をばらすということは、何かあるかもしれない。
「なにもありませんよ」
心を読んだかのように、シーナが言う。
「必要とされている、彼女がねたましくてうらやましい。そしてその彼女を手に入れようとしているあなたも」
シーナは笑った。
あの超えた笑い方。
神田はその目を見て、色の違いを見た。
「ただ、それだけです。・・・行きますよ」
シーナは地面を蹴った。
勝敗は五分ほどでついた。
から見て、シーナは強かったと思う。
ただそれ以上に神田が強かった。
止めの蹴りを叩き込むと、シーナが唾液をはいて揺らいだ。
神田はゆっくりと息をはいて手刀をうなじに打った。
それでシーナは落ちた。
動かない。死んだわけではないとわかっている。ただ気絶しているはずだ。
でもにはシーナが死んだように思えた。
「・・・」
神田に名を呼ばれ、はシーナから目線をあげた。
「このバリアーどうやって解除するんだ?」
「・・その人が持ってる、青い石を持ってれば、抜けられるの」
神田は気絶しているシーナのポケットを探り、そして首元を探った。
神田の眉がひそめられ、取り出した手には青い石とロケットペンダント。
「それ、その、青いの」
が言うと、神田はロケットペンダントを残し、青い石をシーナの首から抜いた。
それを持ち、神田はベッドに歩み寄った。
ゆっくりとベッドに上がる。拒絶はされなかった。
その神田の顔がとても痛々しいので、はやっと自分の今の状態を思い出す。
「・・・大丈夫だよ」
は胸元をかき合わせながら言った。
「ちょっと首とか胸元とか、舐められただけ」
大丈夫だよ、とは繰り返す。
変に冷静な自分が気持ち悪いな、と思っていると、ぽろんと涙がこぼれた。
「ほんとだから、ほんとに、大丈夫だから」
震える声でそういい続けるの体を、神田は抱きしめた。
確かにそれ以上のことはなかったのだろう。
の上半身こそ乱れているものの、コルセットや下半身に触られた様子はないし、ドレスや髪が乱れているのも多分が嫌がって暴れたせいだ。
だが、神田にはぴんと張った糸が見えた。
今にも切れそうな糸を、必死に切れまいとしている。
切れても、大丈夫だから。
俺がいるから。
そう思いをこめて、神田は腕に力を入れた。
震えていたから小さな嗚咽が漏れ、そしてその手がぎゅっと神田のシャツを掴んだ。
        
シーナのカポエィラは適当です。ごめんなさい。
けい
08,07,06 |