ス、と体術『型』を取る。
腕を回し、足を上げて一気に振り下ろした。

空を切る音。

続いて足を後ろにすり上げ、正拳を突く。













+cat poison+




















落ち着いて動いてみると、歩行にはおおむね問題はなかった。

体を動かし、筋肉の収縮を確かめる。

――――いける

正直ネコの時に使っていた筋肉と人間の二足歩行の筋肉とでは違うのではないかと思っていたが、うまく変換されていたらしく衰えは感じない。

ただ、目線の違いに少し戸惑う。


(すぐに慣れるだろ)


ふと気がつく。

「っ!」

猫の時の感覚で気がつかなかった。
だが、自分は一糸たりとも身にまとっていない。

つまり素っ裸。

気絶しているゴードン卿以外誰もいないのが幸いだった。
だがいつ人がくるかわからない。

それにを探さなければ。

見回すが、この実験室(仮)にクローゼットらしきものは見当たらない。
探せばあるのかもしれないが、自分を猫から人間に戻す薬があるということはこの部屋はコムイの部屋級に危険だということ。
そんなところをおいそれと引っ掻き回すわけには行かない。

「ちっ!・・・仕方ねぇ」

神田は転がっているゴードン卿に手をかけた。

(・・・ベルトがいる)

樽の様な卿のお腹を見て、神田はそう思った。



































(・・・はどこだ)

カフスボタンをかけながら神田は走った。
靴の大きさはぴったりだが、いかんせんウェストがでかい。
蝶ネクタイの首周りもしかり。
何とかいけるのは上着ぐらい。
髪はカーテンを止めてあったリボンを拝借した。

先ほどから召使とすれ違うが、招待客か新しいボーイとでも思っているだろう、軽く会釈するだけでフリーだ。
たまに「どうかなされましたか」という声があるが、「トイレだ」と低く言うと大概が目線をそらして「いってらっしゃいませ」、で終わり。

つくづく人間の体は良いと思う。

再び明かりのともる部屋を見つけた。
バン!と開くとうわっと悲鳴を上げた男が丸い目をして立っていた。

ずかずかと歩み寄って

「お前、金髪で緑の目をした召使を知ってるか?」
「え?え?」
「どっちだ!さっさと答えろ!」
「し、知らないです!」
「じゃあ寝てろ!」

鳩尾に拳をねじ込むと、男は落ちた。
ため息をついて、神田はその男の体をベッドの下に蹴り込む。
そして部屋を飛び出し、また走り出した。

先ほどからこの繰り返し。
明かりのついている部屋を見つけては手当たり次第に入って、あのといた召使を知っているか聞いて、知らない、じゃあお休み。

たぶん、はあの金髪野郎と一緒にいる。
このパーティーに来てからはあいつとゴードン卿以外と長く言葉を交わしていないし、何よりあいつの目が気になる。


(・・・くそっ!)

走っても走っても見つからない。焦燥感に駆られる。
は無事だろうか。


好きな女一つ守れないのか、俺は。






「あ、お客様」
「あ?」

急ブレーキをかけて止まり、振り返るとおびえた顔をしたメイドが立っていた。
神田はいらだちまぎれに舌打ちする。

「あ、あのすみません」
「なんだよ」

神田の返答におびえているのか、メイドは震えながらも仕事を全うすべく口を開いた。

「その先は、立ち入り禁止となっております」
「立ち入り禁止?」
「はい。そのベルベットのロードの向こうは、申し訳ありませんがお控えくださいませ」

ぺこりと頭を下げたメイドを横目に、神田は自分が今から行こうとしていた先を見やる。
薄暗い中にぽつぽつとろうそくの光が見える。
その廊下は血の様に赤いベルベットがしかれていた。

「何があるんだ」
「旦那様とシーナ様以外は立ち入り禁止なので、なんとも」
「・・・シーナ?」
「はい、執事頭の」
「・・・そいつ、金髪で緑の目をしていたか?」

もしかすると。
ゴードン卿とその『シーナ』とやらしか入れない場所。
エクソシストとばれた、と俺。

「はい」

ここだ。













すっぽんぽんでかっこよく空手(?)の型を決めるユウたん。




けい

08,06,29