目が覚めると、そこは。
(・・・コムイの実験室?)
+cat poison+
(・・・いや、違う)
コムイの実験室はもっと汚い上にセンスが悪いものが所狭しと放り込まれているはずだ。
ここは変な色の液体だらけではあるけれどもきちんと整備されている。
だが、その風景もすべて銀色の鉄棒越しに見えているもの。
(そうか俺は捕・・・まって・・・)
――――は?
そうだ。を探さなければ。
ただの黒猫をわざわざ捕まえるわけがない。
俺たちのことがばれたんだ。
ということは、が危ない。
「・・・くそっ!」
がん!がん!と檻の中で暴れてみるが、檻はゆれるだけで活路が開く気配もない。
急がなければ。
あいつに何かあったら、俺は・・・
「・・・」
「おやおや本当にしゃべるのですね」
扉が開く。神田は身構えた。
見えたのはメイドと・・・ゴードン卿。
先触れのメイドが恭しく頭を下げると、ゴードン卿はずかずかと部屋に入ってきた。
パタン、と扉が閉じられゴードン卿だけがニヤニヤしながら立っている。
胸糞悪かった。
「さて、君は・・・猫君、とでもお呼びしようか」
「ここから、出せ」
もう隠す必要もない。臆することなく神田は座る。
低く唸るが、ゴードン卿は軽く笑ってそれを一蹴した。
「まさか。こんな珍しい品物を。裏オークションにかけてもいいし、実験台にしてもいい」
「・・・殺してやる」
「ほっほっほ。さて、猫君。君と一緒にいた・嬢のことだがね」
という単語を耳にした瞬間、神田は耳を立てた。
牙をむき出しにしながらゴードン卿にらみつける。
「てめぇ、になんかしたら」
「どうするというのだ?毛づくろいでも?」
自分のギャグに受けたのか、ゴードン卿は腹を抱えて笑い出した。
(笑えるか)
コムイよりひどいギャグだ。
「黙れ」
「ほっほっほ!・・嬢は私のコレクションに加えますよ。ご心配なく」
「コレクションだと?」
「えぇ。エクソシストの女なんてめったに見ない珍品だ」
を、コレクションにする?
「っさせるか!」
「どうぞ、猫君はそこで唸っててくれ」
来月の一日が裏オークションです、といってゴードン卿はきびすを返した。
あの背中に、脳天に、一発食らわせてやりたい。
神田は渾身の力をこめて檻に体当たりをした。
大きく揺れたものの、開くことはない。
ゴードン卿が笑う。むかつく。くそっ!
神田は繰り返した。
三度目の体当たりのとき。
檻が大きく揺れた。
かんぬきが外れる。
(・・・よし!)
しかし檻の揺れは止まらない。
ぐらり、と揺れた檻は横にあった変な色の液体とともに乗っていた机からはずれて落ちる。
「なっ!」
ばしゃっ!と液体が体にかかる。
刹那。
神田は、体が大きく波打つのを感じた。
「うっ・・・」
机から落ちた神田は肘を突いて立ち上がる。
檻を出られた。
顔を上げると、ゴードン卿が真っ青な顔で震えている。
(―――チャンス!)
握りこぶしで顔面を殴りつけると、ゴードン卿は素直に吹っ飛んだ。
「あとできっちり殺してやるよ」
気絶しているであろうゴードン卿の体を蹴り上げて、神田はそうはき捨てた。
そして、ふと、思う。
猫の自分とゴードン卿では身長がまったく違う。
なのにたいしてジャンプもせずに、なぜ自分はこいつを殴れたのだろうか。
なにげなしに自分の手のひらを見た神田は愕然とする。
五本に、分かれている。
続いて下を見ると、足もある。人間の足。黒い体毛はどこかへうせていた。
手を上げて後頭部を触ると、髪も長い。
・・・まさか。
「もど・・った・・・?」
近くのフラスコに自身を映して見ると、もうずいぶんとご無沙汰の人間の神田ユウがいた。
        
もちろん今、神田はすっぽんぽんです。
けい
08,06,22 |