は息を呑んだ。

「・・・っ!あなたは」
「残念ですよ、嬢。あなたの外見は大変私の好みでしたが」

艶やかに微笑む、金髪の青年は見覚えがありすぎた。

「エクソシストだったとは、ね」

彼が手に持っているトランクはのもの。
鍵がかかっているはずの留め金は軽い音をたてて解かれ、中のものがばらばらと床に散った。

臙脂色のカーペットの上に散らばったのはエクソシストの団服、そして任務の書類。

(・・・ばれ、た)

は唇をかみ締め、腰を浮かせた。








+cat poison+












「本名は、とおっしゃるのですね」

シーナはひろった書類をぺらぺらと振った。

「エクソシストで、旦那様のコレクションのイノセンスが目的。同行者は神田ユウ・・・この神田ユウはどこに?」

「・・・一杯盛ったわね」

はゆっくりと言葉を吐いた。
何か打開策を考えなければ。
でもイノセンスが使えない今、に術は見つからない。

とりあえず、時間稼ぎを。

「・・・懐柔に応じていただけないのでどうしようかと思いましたが、薬を混ぜておいてよかった」
「卑怯者」
「おや、ここまで手を出さずに運んだのですから、紳士と呼んでいただきたいですね」

シーナはわざとらしく驚いたような顔をした。
その顔をにらみつけながら、ははき捨てる。

「紳士がレディにこの扱い?」
「レディなら、ね。しかしあなたはエクソシストだ。で」

シーナの足が一歩踏み出す。
その下にはの団服。
それをグリ、と踏みしめ、シーナは見えないバリア越しにを覗き込んだ。

「神田ユウはどこに?」
「知らないわ」
「まさか」

シーナの甲高く笑う声が耳障りだ。

「知らないとおっしゃるのですか」
「ええ」

しれっとは答えた。
シーナの顔から笑みが消える。

「・・・残念です、非常に。あなたを出して差し上げたかったのですが」
「これは、何?なんのバリアなの?」

「これは旦那様の傑作。対イノセンスに効果を発揮するものです。」

いとおしげにシーナがベッドのふちをなでる。
は驚いた。

シーナの手がはじかれない。

「驚いているのですか?」

顔に出ていることをは恥じた。
それを見、満足げにシーナは笑う。

「中に閉じ込めるバリア。もちろんイノセンスも通用しません。・・・この石を持っている人間以外はね」

胸元を探ったシーナの手には青い、ラピスラズリにも似た石が握られていた。

「さて、話していただけないならば仕方ありません」

恭しくお辞儀をしたシーナはの団服を蹴り上げた。

「こちらから探すとしましょうか。・・・あぁ、そうそう、あのしゃべる猫ですが」
「っ!なんでそれを」
「申し訳ありませんが、盗み聴きさせていただきました」

眉をハの字にするシーナの顔を、は殴りたくて仕方なかった。
しかしいまは自身は籠の鳥も同然で、ただ唇をかみ締めることしかできなかった。

「あの猫は捕らえさせています。しゃべる猫なんて売ってもいいし」

にっこり笑うシーナの顔は薄闇を想像させた。

「実験にはもってこいですね」















がいない。

庭はもちろん、パーティー会場も隅々まで探した。

いない。

(まさか、もうゴードン卿のところにいったのかよ・・・)

それは任務の筋書き通り。
だがそのとき自分はそばにいるつもりだったのだ。
いや、止めるつもりだった。

心配になる。
胸騒ぎがする。

一時の感情に任せて行動したのは間違いだった。
今は危険な任務中であるのに。

「・・・

つぶやいた時、神田は飛び退った。
くるんと反転し上体を低くする。

−−−−−なにか、いる。

「・・・にゃぁ」

この姿でも違和感のない声を出してみるが、どこにも動く気配はない。
だがなにかいることはたしかだ。
神田の全身がそう言っている。
それは猫としての感覚か、元から神田が持っていたものかはわからないが、気を抜ける状況ではなかった。

「・・・・・・・・・・・・」

−−−−−ガタン!

音に思わず振り返った。
瞬間、目の前が真っ白になる。

(っ!布か?!)

神田はあばれた。
しかしその行為は布にさらに絡まるだけでしかなく、破るしかないと爪を立てた瞬間、腹に衝撃が走った。

「ぐっ!!」

蹴り上げられた。
白い布ごと神田の体が飛ぶ。

着地と同時に体勢を立て直そうとするが、布が邪魔でそうもできない。
背中からたたきつけられるように落ちた後、さらにまた蹴り上げられる。
それは数度繰り返された。

動けなくなった神田の体を、乱暴な手が拾い上げた。

「悪いな。シーナ様の命令とあっちゃあ俺も逆らえねぇよ」

(・・・さわるんじゃねぇ)

声が出ない。
腹がやられて器官を動かすことさえできない。

ぐったりした神田の体は鳥籠の様な小さな檻に放り込まれた。


これが人間の体であったなら、ここに六幻があったなら。


(くそ・・・・

意識が遠のく。


脳裏に浮かんだの顔も、白に消えていった。










一年三ヶ月ぶりの猫連載。
もうこの連載は佳境なので、書ききりたいなぁと思います。



けい

08,05,29