口をついて出た言葉だ
本心じゃない
――――本当に?
本当に?
――――……違う
本当は?
――――いつのまにか
そう、いつのまにか
心の隅から、膨らんで…‥
+cat poison+
「なっ・・!」
は二の句がつげず、目を見開いた。
(何?今なんて?ユウが、私を?)
頭の中は先ほど神田が怒鳴った言葉が周っている。
『お前が好きだからだ!』
(嘘、嘘!だって・・・そんなはず・・・)
どうせまたからかっているのだ。
そうだ。
そうに決まっている。
いつもみたいに、人を食ったような笑い声を上げて私を馬鹿にする筈だ。
そう思って神田を見てみると、神田はただじっと下を向いていた。
(え・・・・)
「ユ、ユウ?」
「どこが、とかなんで、とか聞くな。俺だって今怒鳴ったので気が付いたんだ」
よくよく見てみると神田の黒い毛並みの下の肌はピンク色で、その目は決してを見ようとしない。
(ユウが、私を、好き?)
信じられなかった。
でもそれが真実であることを、目の前の神田の様子が雄弁に語っている。
途端、の顔に朱が走る。
何せ、こんなことは生まれてはじめてなのだ。
どちらが口を開くことも無く、沈黙だけが二人の間に横たわる。
はただ突然のことに混乱し、また赤面し、神田のほうも赤くなりつつ気まずそうに目を逸らしたままだ。
目の前のは赤くなって下を向いている。
神田は内心ため息をついた。
(やっぱりな・・・)
がこういう状態になることはなんとなく予想が付いたことだ。
しかしこの告白は、神田自身にとっても予想外だった。
口喧嘩のさなか、突然口をついて飛びだした言葉。
言った途端、何故か胸のしこりが取れた気がした。
そうだったのかと自分でも驚いたが、何故か納得できた。
あの変態野郎にどうしようもない怒りを抑えられなかったことも、合点がいく。
先ほどに言った通り、どこが、とか何故、と言う問いに答えることは出来ない。
しかし『が好きだ』ということだけは明白に神田の中に浸透している。
もっとも、やはり気恥ずかしく、からだが熱を持つのを抑えられることは無かったが。
の返事が気になった。
が、多分色よい返事ではないような気がする。
この3ヶ月、自分は特にに優しくしてやろうとか思ったことは無く、ただと共にすごしただけだ。
その中で、神田のことを好きになれ、と言うほうが無理なように思う。
それ以前に、神田は今、猫の姿だ。
そんな特異な男から告白されても、は迷惑なのではないか。
ただ、一緒にすごしたものとして、強く言えないだけで。
それとも、怒鳴りながら告白、と言うこと自体、からしてみれば眉を潜めるようなことなのではないだろうか。
実際、はただ赤くなりながら下を向いて、一言もしゃべらない。
「・・・・・悪かったな」
そう一言呟くように言い、神田はベンチから降りて走りだした。
居たたまれなかった。
予想の付く返事は、聞きたくなくて。
「悪かったな」
そう突然言ったかと思うと、神田はベンチを降りて走りだした。
「え?」
そう呟いた時には、もうすで神田は居なかった。
(なにが?なんで『悪かった』なの?)
神田は告白したことを後悔している?
いや、そんなはずない。
先ほど『怒鳴って気がついた』と言っていたのだ。
(・・・じゃあ、なんで?)
わけが分からない。
考えすぎたせいか、頭がボーっとしてきた。
自分の頭はこれだけの容量しかなかったのか、と自嘲気味に思う。
しかし、それにしては何か変だ。
突然高熱が出てきたようなこの感覚。
いや違う。
熱の感覚じゃない。
気持ち悪い。
目の前の風景が回る。
何も考えられない。
全部白くなっていく。
「ユ・・・」
そうして、は昏倒した。
        
告白して走り去るって、それ、女の子の行動ですよ、神田さん。
けい
06,12,25 |