「どうぞ。」
ほんの少しの間見えなくなっていた青年は、飲み物を取りに行っていた様だ。
差し出されたグラスを取ったの隣に、ごく自然に腰を降ろす。
そして自身のグラスをに向かって軽く掲げた。
どこかおどけた様な笑みを浮かべる青年に、は軽く微笑んでその意味を悟ったことを示す。
「貴方と会えた、今宵に」
乾杯、と小さく言った青年はの顔を覗きこむ様にして嫣然と笑む。
は呆然と軽く開きかけた口元を慌てて引き締めた。
(・・・・・・・何この人、さむっ!)
はひくつきそうな口元を顔の筋肉全てを総動員して押さえ込み、
「えぇ」
言ってグラスを持ち上げる。
そしてその淵に口をつけた。
何が楽しいのか、青年は口元の笑みを絶やさなかった。
+cat poison+
青年の名を、シーナと言うそうだ。
ファミリーネームを尋ねてみたのだが、
「使用人ですから。たいした者ではございません」
そう言って教えてくれなかった。
が、はたいして気にしなかった。
お酒が回ってきたのかもしれない。
に、しても、このお酒はきつかった。
頂いた手前、ちびちびと飲んではいるが、喉が焼けるようなお酒だ。
それを隣のシーナと言う青年はしれっと飲んでいる。
(この人、お酒強すぎ・・・)
そういえば、神田はお酒強いのだろうか。
なんだか強いような気もするし、弱いような気もする。
「その、先ほどのことなのですが・・・・」
「・・はい?」
先ほどのこと、と言うと神田のこと以外には無い。
「考えてみたのですが、貴方はその方に好意を抱いているのではないでしょうか?」
「え・・・え・・・ぇ?」
は怪訝な声を上げた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・私が?神田に?
「な、ないです!それは・・ち、違います・・・」
「そ、そうですか」
力いっぱい否定され、シーナは軽く目を見張った。
声を荒げたことに驚愕したらしい。
「はい!」
力いっぱい肯定して、は手に持ったグラスをぐいと煽った。
とたん頭がクラリとなった。
喉が熱い。
「くほっぐ・・」
(わ、忘れてた・・!)
お酒が強いのを忘れていた。
軽く咳き込んでしまったその背を、シーナは優しくさする。
「大丈夫ですか?!」
「だ、大丈夫です。ごほっ、お気になさらないで・・・・」
口元に手を添えて、何とかは息を整える。
そうしてふと顔を傾けると、青年の顔がすぐ傍にあった。
(な、何?)
ビー玉のような瞳がこちらを凝視している。
いや、正確には見詰めている、といった色っぽい目なのだが、はよく分かっていない。
シーナの金髪の前髪が揺れる。
「僕じゃ・・駄目ですか・・・?」
「は・・い?」
(何が?は?駄目って何が?)
良いも悪いも何にも言った覚えはない。
さっきからこのシーナの言動は不可解だ。
そう思っているうちに、いつの間にか背を撫でていたシーナの手は腰の位置まで下っている。
その図を客観的に想像したは慌てた。
(これじゃまるで・・・)
肩を寄せ合う恋人同士のようではないか。
しかし何故かそのビー玉の瞳から逃れることが出来ず、は固まっている。
「レティシア嬢・・・」
囁くように、呟くように、その形の良い唇が動く。
はその唇が動いたことで、瞬間顔を背けた。
その時。
何かが横から飛び出すのをは耳で察する。
瞬間、は顔をそらせた。
常人ならば決して出来ないであろうその動きを、エクソシストの訓練を受けているは脊髄反射のごとくして見せた。
そのの鼻先をかすめて、たんと降り立ったその者は。
黒猫だった。
その時、軽い舌打ちの音が聞こえた。
それは、誰か。
臨戦態勢をとろうとして、あわてて居直したは不覚にもその音の元を辿ることはなかった。
        
きな臭い男。
けい
06,10,29 |