「もやっとしてなんかやだな・・って言う気持ちって何だと思いますか?」
自分の心をそのまま告げただけだったが、ボーイの人は絶句していた。
口を半びらきにしたが、妙な声を出すことだけは何とか抑えこんだようだった。
無理も無い。何を聞かれるかと思ったら、悩み事相談だったのだ。それも何の脈絡も無い。
「そ・・・それは、ただの嫌悪感だと言うこと以外、お答えしようが無いと思うのですが・・・」
しどろもどろになりながらも、客の要望に答えるのが自身の勤めというかのように、至極丁寧に返してくれた。
もしかしたら、客の望む答えを手さぐりで答えていたのかもしれない。
「そう・・・ですか」
はガクリとした。
それは自身の望む答えではなかったのだと、そこでやっと気がついた。
何故?
私は何を望んでいたんだろう?
+cat poison+
「・・・・・落胆なさっていますか?」
「え?」
そんなにこれ見よがしな表情をしていたのだろうか。
慌てて頬を抑えるに、ボーイは苦笑した。
「私にはお客様の胸のうちを覗き見ることは叶いません。ですが、落胆なさっていることは見て取ることが出来ました。と言うことは、嫌悪感ではない、と言うことではないでしょうか・・・」
自信はあまりありませんが、と金髪を少し揺らす。
その髪を綺麗だな、と思ってからまたあの黒髪を思いだす。
確かに、嫌、と言う気持ちではないのだ。
それは先ほどもひっかかっていたこと。
気性がはっきりしているは、『好き』と『嫌い』は明確に区別を付けることが出来る。
なのに、こうして今まで感じたことの無い感情がの中、それも、神田に対する、と言うカテゴリにある。
もやもやとしていてやだな、と言う気持ちと一緒に今度は胸のうずきまでも加わってきた。
体調不良だろうか。
いや違う。
熱っぽいことは無いし、体もだるくない。
「すみません、ご希望に沿うことが出来ず…」
声に、見ると金髪の青年はすまなさそうな顔をしていた。
は慌てて首を振り、さらには手もふる。
「そ、そんなこと!お気になさらないでください。私が勝手に支離滅裂なことを言ってしまっただけなんですから!」
強く弁明するを面白く思ったのか、青年は軽く笑った。
その様子が上品で、は内心驚いた。
ボーイ・・・召使にしては、違和感があるその笑み。
言葉使いにしてみても、敬語と言うより、クイーンズイングリッシュに慣れてそうな・・・・
「あ、すみません・・・失礼を」
黙りこんでいたのを気分を害したととったのか、青年はまた謝罪の言葉を繰り返した。
「いえ全然!」
と私が言うと、青年はふと何かを思いだした風で、少々お待ちください、と言ってどこかへいってしまった。
ぽつんと取り残された。
なんとなく手持ち無沙汰に感じ、置いてあったベンチの上に腰を降ろした。
そろそろこのドレスもつらい、と考えながら。
「ちっ!何だの奴・・・」
神田はぶちぶちとへの恨み言を並べながら進む。
よくよく考えれば、今の状況ではとはなれることは得策ではないとやっと気が付き、元いた場所に戻ってきたのだが、当然の事ながらはもうその場にいなかった。
おかげで探し回らなければならない羽目になったのだ。
「ったく!アイツどこ行きやがった!」
なんだかこうやって探し回っているのが馬鹿らしくなってきた。
神田はその場に腰を下ろし、後ろ足で耳の後ろを掻いた。
気持ちいい、と感じる。
そこではっとしてあわてて後ろ足をお座りのポーズに戻す。
なんと言う猫じみた行動をするようになってしまったのだ。
本当の体に戻った時に、自分は前の行動を取れるだろうか。
四つんばいで歩いてしまう自身を想像し、神田はぞっとする。
早く元の体に戻りたい。
それはこの三ヶ月神田が一心に願ってきたことだ。
さっさとこの猫生活ともおさらばしたい、と。
――――――――本当に?
あたりまえ・・・だ・・・・
「ユウ!体拭くよ!」
暖かいタオルを持って両腕を出すが浮かんだ。
体を拭いてもらうのは最高に気持ちよかった。
だが、今、は自分を拒絶している。
なんだかとても・・・とてもやりきれない気持ちを、神田は胸に抱えていた。
        
神田も気がつきはじめまして。
けい
06,08,15 |