4月3日(火)
午前8時。
「・・・・・は?」
は電車の電光掲示板の前であんぐりと口を開けた。
電光掲示板に打ち出された赤い文字は『10分遅れ』。
(・・・・10分遅れたら間に合わないのよぉっ!)
そんな叫びを心に押しとどめ、その代わりこぶしをギリと握りしめた。
この駅から学校の最寄の駅までは一本。
所要時間は20分。
駅から学校まで徒歩で10分。
『新入生は午前8時30分までにクラスを確かめ、自身のクラスに着席しておくこと』
カバンに入っている冊子にはどこをどう見てもそう書いてある。
ぎりぎりまで近所の犬とじゃれていた自分も確かに悪い。
悪いと思う。
でも・・・でも、この『10分遅れ』さえなければ、駅から学校までの道のりを全力疾走で5分、残りの5分でクラスに向かう予定だったのだ。
(・・・・・初日から遅れるなんて、そんな漫画みたいな話・・・)
やらないと自分を信じてた自分が馬鹿だった。
いや、自分なんて信用するべきじゃなかったのかもしれない。
+School Days+
#1:漫画みたいな話
日本に来て二ヶ月。
小4まで日本にいたの記憶は、もうほとんど掘り起こされていた。
だがやはりこのけたたましいホームの放送は慣れない。
『大変長らくぅ、おまたぇせいたしましたぁ。まもなくぅ、電車が参りまぁす』
この変な抑揚は何なのだろうか。
気持ち悪いったらありゃしない。
大体なんでいちいち音を鳴らすんだ。
鳴らなくて電車が来ることぐらい分かってるのに。
来た当時はそう思い、一人ホームでイライラしていただった。
が、今はその放送を待ち遠しく感じている。
(やっと・・・きた!)
来た電車はもちろん満員電車。
しかしそんなこと気にしていられない。
なんとか流れで乗り込むと電車は窮屈そうな音を出して閉まり、ゆっくりと重たそうに走り出した。
(もっと、早くー!!)
心でそう叫んでみても、電車のスピードが上がったり止まるはずの駅を通過するわけではない。
そう分かっているものの、どうしてもそう願わずにはいられなかった。
『黒団ー黒団ーお降りのお客様はぁ・・・』
放送も気にせず、は人をかきわけ電車から飛び出した。
やっと解放された体を一度大きく伸ばし、息を吐く。
そしてカバンを走りやすいようにぐっと持ち直すと、改札への階段を一段飛ばしで駆け降りた。
走りながらポケットの定期入れから片手で器用に定期を取り出し、すばやく改札口に滑りこませる。
出てきた定期をつかみとり無造作にポケットにつっこむと、はいよいよ本格的に走り出した。
新品でまだ糊の取れていない制服の所為で、腕が動かし辛い。
スカートのプリーツがたっぷりしていることが、唯一の救いだろうか。
ちらりと見やった時刻表用の時計の針は40分をさしていた。
(20分遅れかよ!)
「・・・嘘つきーっ!!」
いよいよたまらなくなり、はそう叫んだ。
誰が、とはここでは聞いてはいけない。
周りでビクッと人が震えるが、にそれを気にする余裕は無い。
カバンの端からカサリと落ちてしまった『入学のしおり』さえも。
      
ベタベタで行きます。
けい
06,04,01(08,04,02改) |