「これで全部だな」

書類を受け取り、すべてに目を通し終わった川末はを見た。
は川末との打ち合わせでのことをまとめたルーズリーフをファイルにしまいながら肯く。

結局、話し合いの場は中学の第二会議室だった。
ふんわりしたソファは卓球部の部室より居心地が良いと見える。

川末とこうやって向き合って話すのは居心地がいいというか、気恥ずかしかったのだが。












+Tears+









「えっと。あとはこっちの校長に話通しておくから」

「頼む」

「ふぅ・・・ありがとう。助かったよ」

「何がだ?」

川末が立ちあがりながら尋ねた。
はカバンのファスナーを閉める。

「岩熊さんとか誰も居なかったら、出直さなきゃならない所だったもん」

(川末君にも会えたし…)


王華のマネージャーとして、が出向いたのにはわけがあった。




学校も違う、住んでいる場所も違う。

それでも好きになってしまった、他校の生徒。

唯一のつながりは、『卓球部』というものだけで。


会いたくても、簡単に会いに行くことなんて出来ないし。

第一、彼は私のことなど気にも止めてくれていないに違いない。

そんな彼に堂々と会いに行けるのは、『王華のマネージャー』としてだけだったから。

だから、他のマネージャーさんにお願いして、この役を譲ってもらったのだ。




「砂糖、いるか?」

「え、あ、お願いします」

前にトンと置かれたのは湯気たちのぼるコーヒー。
苦い物が苦手なは砂糖やミルクなしではとても飲めない。

「ほら」

川末がグーにした手をさしだす。
手でお椀を作ると、その中にぽとぽとと角砂糖が落ちた。

「ありがとう」

「あぁ」

そっけなく返事をした川末は向かいに座りなおした。
その前に置かれているカップに、は目を見開く。

「…川末君、ブラックで飲めるの?」

「砂糖なんか入れると甘ったるい」

そう言って川末はコーヒーをすする。
その伏目の顔に、は何だかどきどきする。

(う・・わぁ・・・)

目を離せないで居ると、川末が目線だけをこちらに向ける。
慌てて顔をそむけるも、川末にはばっちりと見られていたらしい。

「なんだ?」

「い、いえ別に…」

川末は不信そうに眉を潜めるも、それ以上追求することなくまたカップを傾けた。










「一人で駅までの道、分かるのか?」

「ここまでどうやって一人出来たと思ってるの?」

「あぁ・・・そうか」


川末君は校門まで付いてきてくれた。
いわく、“王華の制服で校内をうろちょろしてると変なのに目をつけられる”からだそうだ。

(王華ってそんなに嫌われてるのかな・・・?)

と心配になったものの、彼の傍を歩けていることが嬉しかったので何も言わなかった。


「じゃあ、今度会うときは練習試合のときだね」

「・・・・あぁ」


切なかった。

今度会ったとき、彼とはこんな風に話しをすることなんて出来ないだろう。
彼はこちらに目を向けることすらしないだろう。
そして自分は、おおっぴらに彼を応援することも、到底出来ないだろう。

・・・それでも、彼の顔を見ることは出来るのだから。


は顔を上げた。

川末が目の前に立っている。
いつもの表情で、かわりなく。

は目頭が熱くなるのを感じ、急いできびすを返した。

「・・っばいば」

“ばいばい”と言って走ろうとしたの腕を、川末がつかんだ。
強引に引っぱられ、驚きで顔を上げると、苦しそうな川末の顔がそこにあった。

「・・・何で泣いてる?」

「あ・・・」

頬を伝う感触は、確かに涙を流している証拠。
それを隠そうと無理に下を向こうとすると、川末の声が耳に飛びこんでくる。

「俺が何かしたのか?!」

「な、なんでもな・・・あ、目にゴミがはいってそれで・・・」

「嘘を付くな!」

「ほ、本当に何でもないの!本当にっ!」

!」

「っ!」

「・・・・言え」

低く、重く言われては戸惑った。

今、ここで、言うべきか。


“川末君が好き”だと。


怖い。
ここで言ってどうなる?

もし拒絶されたら、もう彼とは普通に話せないかも知れない。

「い、言えない!」

「・・・・好きだ」


「へ?」









が、好きだ」










突然の告白に頭が真っ白になる。
今言ったのは、川末君だろうか、と彼を見てみると、頬にかすかに朱がさしている。

「泣いて、欲しくないんだ」

彼の口が、確かに動いている。
さっき言ったのは、確かに、確かに彼なのだ。

の目にまた涙が浮かぶ。

「え?お、おい!」

さらに泣きだしてしまったの前で、川末はあたふたする。

“泣くな”とか“そんなに嫌だったのか?(告白が)”とかいう言葉を繰り返す川末。


は喜びの涙の中、思った。







ひとしきり泣いたら、川末君に教えてあげよう。






嬉しすぎて出る涙も、有るんだよって。










[END]







個人的には川末君はクールぶってても内心わたわたしてると良いな!!
そしてそれがなんかの拍子に出ちゃって顔赤くしてるといいな!(帰れ

その上相馬君とかも気になっちゃうんだよな!!!

けい

07,01,09