パチリと眼を開けて、は息をのんだ。
きれいな石像のような顔が、目の前ですやすやと寝ている。

「は・・・ぇ?・・・・あ」

思い出した。
自分は昨日、神田の部屋に思い切って来て、それで・・・

赤面しつつ肘をついて上半身をあげると、腰の痛みに思わず顔をしかめた。
はじめは優しかったのに、途中からむちゃくちゃされた昨晩。
でも、それでも幸せだった。

見下ろした睡眠中の神田はどこか幼く見える。
まつ毛が長く、小さく開いた薄い唇から漏れる吐息は何とも色っぽい。

悔しくなって、神田の頬をツンツンとつつく。
つるつるだった。

さらに悔しくなって、むにーっと反対方向に引っ張ってやった。

(・・・変な顔)

一人でくすくす笑っていると、突然腕がにゅっと伸びてきた。

「え?」

驚く間もなくその手に頭をつかまれ引き寄せられる。
大きくて温かい胸に押しつけられると、頭上から声が降ってきた。

「・・・にやってんだ」
「起きたの?」
「起こされた」

不機嫌そうな声に、なぜか笑ってしまう。

「おはよう」

言って軽く口付けると、神田も微笑んでお返ししてくれた。
二人で小さく笑って、また口付ける。

明るい朝だった。










































+cat poison+






















「これ、報告書です」
「あ、ありがとうね。そこおいといて」

報告書を仕上げ、朝食の帰りに二人揃って執務室に向かうと、コムイは紫色のオーラを出しながらペンを動かしていた。


「なにかあったんですか?」
「中央庁からねー調査の件がねー13件も来てねー」
「はぁ」
「リナリーもいないし、ファインダーも足りないし・・・はぁ、誰か手伝ってくれるような素敵な人、いないかなぁ?」
「お疲れ様です。じゃ。ユウ、いこ」

は神田を促して足早に部屋を去ろうとした。
何か嫌な予感がするのだ。

「え、ちょっと待ってよー!」
「やです」

はドアノブに手をかけた。
その瞬間。

「えいやっ!!!」

掛け声とともに、コムイがどこから出したのか、小さな紐を引っ張った。
とたんドアの前にいたの上にピンクの液体が降り注ぐ。

「わぁぁぁぁ!!」
?!」

びしゃっと音がし、次いでボンっとどこかで聞いたような間抜けな爆発音が響いた。
神田の脳裏に、自身の嫌な記憶がよぎる。

?おい!・・っコムイ!てめぇに何しやがった?!」
くーん!どうだい!くーん!」

コムイは先ほどの死にかけた状態はどこへやら、目を輝かせてドアの煙の塊を見つめる。
が、煙の奥にぼんやり浮かび上がるその影は神田の時のように小さくはない。

「え?嘘、失敗?!」
「失敗って何だ!おい!コムイ!」

神田がコムイをつるし上げようかに駆け寄ろうか迷っているうちに、煙がはれていく。
その先には。

「・・・つっめた!ちょっと室長!なにするんですか!」

が立っていた。
・・・猫耳のオプション付きで。

神田のテンションがあがる。
口が半開きになっているがそんなことも今は気にならない。

「あー・・・昨日神田君にもらった液体で作ってみたんだけど、うん!成功!」

コムイは一人拍手をする。
が、は何が何だかわからない。

「え?!何?!何?!!」
「ごめんね、君。ここにげどくざぐふぁっ!」

コムイが言いかけた言葉を、神田が殴りつけて遮った。
そしてコムイの胸倉をつかみ、ずるりと引きずりあげてひとこと。

「解毒剤、出すな」
「へ?」
「解毒剤絶対に渡すんじゃねぇ、わかったな!」
「え、あ、うん」

真っ赤な顔に小声で脅されてコムイがとりあえず頷くと、神田はに駆け寄る。

「何?なんなの?私へん?」

が首をかしげて神田を見上げる。
その瞬間猫耳がピコピコと動き、神田はたまらなくなりの腕をつかんだ。

「え?なに?!え?!」
「帰るぞ」
「へっ?!」

神田がドアをけりあける。
その瞬間。

「第二陣発射!」

コムイの声が響く。
神田が油断した瞬間だった。
見上げる神田に降り注いだのは青い液体。
それは無情にも命中する。

「っく!コムイてめぇ!」
「ふはははは!油断したね神田君!さぁ、実験の成果を見せてくれ!君は赤ちゃんみたいなお肌を手に入れているはずだ!」
「ゆ、ユウ?!大丈夫?!ってか室長!また変な薬作ったんですか?!」
「ジェリーにお肌プルプルになる薬頼まれてたんだよ。・・・うん、君。バッチリだ。君は最高に似合あってるよ。で、神田くーん!調子はどう?どう?!」

声に呼応するかのように、ふわり、と煙がゆれ中から神田にしては小さなものが飛び出してきた。
またもやな展開にが息を飲む。
が、それは人の形をしていた。

ただし、5、6歳ぐらいの。

「おまっ!コムイ!なんだこれは!」

ぶかぶかなシャツで、神田がやたら高い声で叫ぶ。
手をぶんぶん振り回すたびに、あまった袖がぶんぶんとゆれる。

「か、かわ!かかかかわいい!!」

は思わずかけよると神田を抱き上げた。
そしてぎゅうっと抱きしめる。

「ちょ!なんだ!??!どうなってる!・・・ま、まさかまた猫になったのか俺は!」
「違うよ!もっといいこと!!へへへ!」

眉をハの字に曲げ、目を見開く神田。
小さい神田がそんなしぐさをするものだから愛嬌たっぷりだ。

「違う・・・?」
「うん。室長!鏡!鏡!!」
「はいーどうぞー」

にこにこ笑った室長が、二人に鏡を掲げる。

鏡を目の前にし、神田だけでなくも笑みを忘れて硬直する。
ついで二人の悲鳴が、教団中に響いた。



















[END]




これにて『Cat poison』完結です。
読んでくださった方々、ありがとうございました!


余力のある方はなんだか感想文みたいになってしまった舞台裏へどうぞ。


けい

08,10,05