止まるとじわり、と汗がにじむ。
立海の太陽色のポロシャツが汗で背中に張り付く。
それが嫌で、柳生は軽くステップを踏んだ。
スピリットステップでコートをたたくと、ボールが帰ってくる。
(・・・)
いける。
そう思い、ラケットのヘッドに左手を添える。
刹那、柳生のレーザービームが相手のコートに刺さった。
「ゲームセット、ウォンバイ柳生!3-0!」
「ありがとうございました」
「相変わらず、すごいな」
今回の試合相手の佐藤が苦笑している。
「まだまだですよ」
「ははっ!そうか」
軽く握手して、きびすを返した。
襟を立て直しながら向かうは給水場。
途中で心得たようにタオルを差し出した仁王に礼を言い、真田に声をかけた柳生はそそとコートを出て行った。
+向日葵+
(・・・それにしても、暑いですね)
試合は15分もなかったが、柳生はびしょ濡れだった。
まだ6月だというのに、真夏のような日差しが容赦なく照りつける。
きちんとセットしたはずの髪型もユニフォームも乱れに乱れ、ボタンを開けようかとさえ思う。
(・・・いえ)
やめておきましょう。
胸元をさらすなど紳士のすることではない。
眼鏡を外し、台の上にタオルとともに置くと、蛇口をひねった。
勢いよく飛び出した水は少し生ぬるくかすかにカルキの匂いがするが、かまわず柳生はそれに自身の顔をさらした。
眼鏡をどけてタオルで顔をぬぐうと、少し涼しく感じた。
(すぐに暑くなるんでしょうね)
あと5分もすればまたもとに逆戻りなのはわかっていた。
それでも一時の涼を求めた。
「あ!柳生君?」
「・・・!こんにちは、さん。部活ですか?」
「そうそう。もうねーほんと、あいつらってば人使いが荒いったら」
なんとか平静を装い眼鏡をかけた柳生の目に映ったのはよっこいしょ、と15歳らしからぬかけ声とともに給水場におかれた2リットルのペットボトル約10本。
奇異の目で見られていたことに気がついたのか、彼女は苦笑いして一本目のキャップを回した。
「部員たち、給水場に来てる暇ないからね。マネージャーがこうやって運んでるの」
「お疲れ様です。・・・手伝いましょうか?」
「いいよいいよー!立海テニス部のレギュラーさんにそんなことさせらんないよ」
首を振って笑った彼女は、柳生が内心かなり落胆していることを知らない。
彼女の名前は。
立海のラグビー部のマネージャーだ。
「それでは、キャップを外す作業だけでも」
「うーん・・時間、大丈夫?」
「はい、私の試合は終わったばかりですから」
「・・・じゃあお願いしちゃおうかな」
ポコポコと空のペットボトルがぶつかり合う音がする。
暑い。
でも嬉しい。
たわいない会話をしながら、ちらりちらりと彼女を見た。
きゅっとポニーテールにくくり上げた髪の後れ毛が首筋に張り付いている。
額には汗がにじみ、時折目に入ってしまうのを腕でぬぐいながらも楽しそうに作業をしている。
(何度考えたでしょうか)
彼女が我がテニス部のマネージャーであったら、と。
もしそうであったなら、自分は何発でもレーザービームを打てる自信がある。
(・・・馬鹿なことを)
10本目のキャップを外し、柳生は頭(かぶり)を振った。
「あ、終わったね。ありがとう・・・どしたの?眩暈?日射病?だいじょうぶ?」
「い、いえ、なんでもありません!」
「ほんとに?なんかあったら保健室行ってよ?・・よーし、これで終わり!」
10本目に水をつめて、彼女は籠にすべて放り込んだ。
「よい、っしょ!」
2リットル二ケースほどの重さのそれを、掛け声とともに持ち上げると、
「じゃ柳生君、またね!」
にっこり笑った笑顔は太陽よりまぶしい。
くらり、としている間に愛しい太陽が去っていったことに気づいたのは1分後だった。
「あれ、お前さん、給水場に行ったんじゃなか?」
「ええ、行きましたが・・・?」
「試合が終わった後よりひどい汗かいとるぜよ」
そりゃあ汗もかきますよ。
太陽よりきつい日指しを浴びてきたんですから。
[END]
初柳生。もちろんばーちょん影響です。
柳生は真摯だけど一回たがが外れると仁王よりひどいと思う。(いろいろ)
けい
08,07,06 |