「さ、真田君!」

「む?なんだ、か。どうし」

「っす、好き!ずっと、入学した時から好きでした!!」

「んなっ!?」

「もし良かったら・・あの・・私と、付き合ってください!!!」







++










「で、逃げて来たのかい?」
「・・・あぁ・・・」
「馬鹿じゃないのかな」

ニコニコしながら毒を吐く幸村に、今日は呆れる事も言い返すことも出来ない。
現代に生きる武士、真田はただただうなだれた。

「だいたい、のこと好きだったんだろう?」
「・・・」

沈黙を守っているが、一瞬で顔に朱を走らせたのがその証拠。

「何で逃げるのか、理解できないね」
「・・・お、驚いてしまったのだ。そして思わず・・・」
「きっと傷付いてるよね、

わざとらしくため息混じりに言った瞬間、真田の肩がぴくっと反応する。

(単純だなぁ)

でも面白い。
だからやめられない。

「告白して、ドキドキして返事待ってたら相手は逃走だろ?嫌われたと思ってるんじゃないかな」
「そ、それは本当か幸村ぁっ!!」

突然叫んだ真田は幸村の細い肩をがくがくとゆすった。
幸村はニコニコしながら止めを刺す。

「きっと、もう真田なんかとは喋ってくれないよね」

あぁ、楽しい。
真田がべそかくなんて、何年ぶりだろう。











「逃げた、だと?」

柳のマユがピクリと跳ねた。

「・・・うん」

はべそをかいていた。

「・・・」
「やっぱり真田君は迷惑だったんだよ」

セーターの袖で涙をぬぐって、はうなだれた。

「告白なんてしなきゃ良かった。きっと真田君、もう私と喋ってくれないよ・・・」

いったん悪い方向に考えはじめると、まるで坂に転がすようにどんどん転がってゆく。

「こんな邪な気持ち抱いてたなんて・・・下手したらマネージャー止めろって言われるかも・・・」

(・・・弦一郎は何をやっているんだ)

「いや、、そうではないと思うぞ」
「・・・だって逃げられたんだよ?人の気配がないなって思って顔上げたら誰もいなかったんだよ?」
「・・・(あの馬鹿め)」

あの生きた化石のような男に好きな女子が居る、と幸村が楽しそうに言ってきたのが去年の終わり頃。
それが誰かなんて俺には当の昔に知っていたが、化石をいじって壊しても可哀想だと思い、黙っていたのだ。

が、幸村にばれた時点で真田は新作のゲームになっていた。
飽きるまで遊びつくされるのだ。
その恋が実らないならば本当に可哀想なのだが、俺のノートののページには真田の名前がしっかりと刻まれている。

これはいける。
そう思った。

だが弦一郎の尻を叩けば、あいつのような堅物はあせって躓いてこけるようなことになりかねない。
なので、の気が固まるまで待っていた。

そして今日、相談を受けていた俺は言った。

『やるなら今だ』

計算は完璧だった。
ただ弦一郎の馬鹿さ加減を計算に入れ忘れていた。

「ねぇ、どうしよう、柳君」

不安そうに見上げるに罪は無い。
間違ったデータを差し出した俺も一肌脱ぐべき、か。

「今日は部活も無い。放課後、教室で待っていろ」
「え?」
「いいから、待っていろ。いいな?」
「う、うん」

がしゃくりあげた。















「な、なぜ蓮ニが知っている!!」

弦一郎は部室に居た。
どうやらさんざん幸村にいじめ抜かれた後らしい。
が、いまは同情の余地さえない。

「そんなことはどうでもいい。とにかく、には放課後教室にいるように言っておいた」
「む、そ、それは!」

弦一郎が食らいついた。
まだ、挽回する気はあるらしい。よし。

「あぁ。行ってこい、弦一郎」
「・・・は何か言っていたか?」

普段は見せない、伺うような表情を見せる弦一郎。
正直気味が悪い。さっさとうまくいってくれ。

「お前に嫌われた、と言っていた」
「そ、そんなことは!!!」
「無いんだろう?」

水をやると、弦一郎の顔が引き締まった。
その顔こそ立海の真田だ。

「無い。俺は、を「柳君、いる?」愛している!」

ドアを背にして宣言した弦一郎に、入室者は見えなかったようで。
慌てて振り返った弦一郎の目に飛び込んできたのは今まさに愛を叫んだ相手。
これは俺にも計算外だ。

「な、なっなぜ、が・・・?!」
「え、あの、えっと、あ、あの・・・」

二人の間に沈黙が落ちる。
正直俺は一刻も早くこの場から立ち去りたい。
が、二人がドア側を占領していてどうにもこうにも身動きができない。計算外だ。

「あの、ね、真田君」
「な、ななななんだ!(が話してくれたぞ!)」
「あの・・その、さっきのって・・・本当?」
「さっき?・・・あ゛」

弦一郎が奇妙な声を出した。
追って先ほどの未青年の主張を思い出したのか、口をあけたまま耳まで赤く染まった。

「あ、あれは、だな・・・」

(・・・気色悪い)
もじもじするな弦一郎。

「あれは・・・その・・・っ!!!」
「は、はい!」

部活のときのような叫び声に、がつられて返事をする。

「俺は、俺はおまえが好きだ!おまえさえよければ俺と付き合ってほしい!!」
「は、はい!」

が泣き出した。
あの立海の鬼がおろおろしているが、もう心配あるまい。

弦一郎がの肩を遠慮がちに抱いて、ベンチまでつれてきた。
おい、後ろに俺がいることを忘れてないか。そして今も忘れてないか。

「ごめんね・・・うれしくて、つい涙が出ちゃって・・・」
「いや、俺もうれしい。うれしいぞ」

見つめあう二人。
もちろん俺には気づかない。
とりあえず、さっさと出ていくことにしよう。

そそくさとドア側に回り、扉を押した。
















「やぁ、蓮二」

部室前で待つこと数分。
存分に聞き耳を立てていると蓮二が出てきた。
聞いている限りではいい雰囲気だったんだけど。
このムードの中どうやって出てきたんだろう。

「やはり精市か」

さほど驚いた表情も見せずに蓮二が見たままを述べた。
俺も驚かない。

「あ、やっぱりわかった?」
「おまえが弦一郎をおいて部室を後にしたとなると、をつれてくる確率は75%だった。大方、俺が待っているとかなんとかいったんだろう」
「うん。まぁ、そんなとこかな」

にっこりわらって、俺はきびすを返した。
蓮二の声が追う。

「もう聞かなくていいのか」
「うん。あとは録音してるから」

まぁ、どこに仕掛けてあるのかまではわからないだろうけど。

すたすたと歩いて約10m。
振り返ると、蓮二が空を見上げていた。

多分ご愁傷さまだな弦一郎、とか思ってるんだろうな。

とりあえず、これで新しいネタは増えた。
ゲームの追加ディスクを購入したときのような気分で、俺は校舎、屋上の網、そして空を見た。



真っ青な空は、真田みたいだ。









[END]




真田大好きです。
明らかにおっさんだけど、明らかに幸村のおもちゃだけど、明らかに赤也のお父さんだけど、でも好きです。



けい

08,04,13