二人は愛し合っていた。
ひと時の語らいだった。
たわいない話をしたり、時に髪に触れたり、手を握ったり。
はにかむ彼女、微笑む彼。
幸せだった。ずっとこの幸せが続くと思ってた。
だが無常にも鐘の音は鳴り響く。
「やだよ長太郎!私、離れたくない・・・」
「俺もです、先輩。あなたを離したくなんてない・・・」
二人の思いとは裏腹に、鐘は鳴り続ける。
もうすぐ鐘の音がやむ。
そうなれば、もう。
「長太郎・・・」
「先輩・・・」
最後とばかりに、ぎゅっとお互いのぬくもりを確かめ合う二人。
あぁ、世は無常。
二人は世間の力によって引き裂かれるのだ。
「〜〜〜〜だぁっもううっとおしいわ!このバカップルが!!休み時間になるたんびにいちゃいちゃすんな!!!うざいわ!」
忍足の叫びに回りにいた皆は賛同した。
+廊下でロミジュリごっこしろ+
「何やねんお前ら!毎日毎日毎時間毎時間イチャコラしやがって!うざいんじゃ!帰れ!」
「忍足ー先週彼女にふられたっからって八つ当たりはよくないと思うー」
「だまれやジロー!!」
ジローに怒鳴っても暖簾に腕押し。
彼はふわーとあくびをし、来たときと同じようにまたふらふらとその場に座り込んだ。
どこまでもマイペース。
ごろんと横になってしまったジローを見、忍足はどこにもいけないその怒りをさらにぶつける。
「だいたいな!お前ら!そんな引っ付きたいんやったらもう学校くんな!」
廊下でひし、と数ミリの隙間もなく抱き合っている二人―――鳳長太郎とは二人そろって眉をしかめた。
「なんでよ、だって学校来なかったら長太郎のテニスしてる姿見れないじゃない」
「俺、先輩がテニスの練習中見ててくれて、時々ちょたーって声を掛けてくれるのが嬉しいんで・・・」
「え?そうなの?そうなの?じゃあ私今日はもーっといっぱい長太郎の名前呼ぶ!」
「そ、そんな・・・嬉しいですけど・・・恥ずかしいです・・・」
「もー!!長太郎は本当にかわいくてかっこよくて背が高くて優しくて照れ屋だね!」
「そんな・・・先輩こそ、かわいくて優しくて気が利いて声もとってもきれいで最高ですよ!」
忍足はげんなりした。
それは周りでこの騒動を見ていたほかの連中も同じだったわけで。
忍足もいつもならこれの無視するのだが、今日は特に鼻についた。(「別に先週彼女に振られたからとかちゃうからな!」)
「・・・じゃあもうええから、どっか別のとこ行ってやってくれ・・・」
「もう本当に俺にはもったいない彼女で・・・って、え?忍足先輩、なんか言いましたか?」
「忍足!せっかく長太郎がしゃべってるのに邪魔しないでよ!」
「・・・すみません」
謝るからもうよそいってくれ。
怒りも何もかも吸い取られたか押しつぶされたかしてしまった忍足は廊下にころがって寝てるジローに寄り添った。
(岳人がおったらてきとーになぐさめてくれんのに・・・)
向日岳人、本日インフルエンザのため欠席。
「お前ら、何やってんだ」
低くよく通る声が廊下に響いた。
とたん忍足は飛び上がる。
「跡部ー!僕らの味方跡部様やー!」
ぴょんぴょんと走って行った忍足は跡部に抱きついた。
それを跡部はべりっとはがして捨てる。
そしてジローの傍まで寄るとジローの体を軽く蹴った。
「おい、ジロー。授業だ、起きろ」
「んー・・・おやすみ」
体を起こしかけたジローは手をぷらぷら振ってまた地面に落ちた。
跡部は髪を掻き揚げながら柳眉をひそめる。
「ちっ!しゃあねーな。樺地でも・・・おい、鳳」
「はい、なんですか跡部さん」
「樺地呼んでこい。」
「・は・・い。・・先輩・・・すみません」
「やだよ!長太郎!離れたくないよ!」
「僕だって・・・!でも、跡部さんの言うことには・・・!」
「なんでそんなこと命令するのよ!跡部のばーかばーか!のーたりん!」
半分涙目で講義するの言葉に、跡部は眉をピクリと跳ね上げる。
ここで忍足が「なんでー!なんで俺の言うことは無視すんのに跡部は相手にすんのー?!」と叫んだがそれもまた無視された。
「うるせぇ。お前はさっさと教室に入れ。予鈴は鳴ってんだぞ」
「この間猫の前で猫じゃらし振って普通に無視されたくせに!」
「なっ!お前どこでそれを!」
「テニスコートの裏!5限の後の休み!ちなみに私は長太郎と二人で私の手作りチョコレートケーキを食べてました!」
「あれ、すっごくおいしかったです」
「ほんと?じゃあまた作ってくるね!」
「でも、俺先輩に何にも恩返しできてないな・・・」
うつむき、ちょっと落ち込んでしまった鳳。
シュンとしてしまった彼を見て、はその手をガッとつかみ、ぎゅっと握り締めた。
鳳が少し顔を上げる。
「そんなことないよ!長太郎が私の傍にいて、それで笑いかけてくれるだけで私は嬉しいの!チョコレートケーキなんて何個でも作ってあげる!」
「先輩・・・」
「長太郎・・・」
見つめあった二人はゆっくりと近づく。
唇が触れ合う、と思った瞬間。
ぐい、との体は後ろへ遠のいた。
「なっ!宍戸?!」
「わりぃな、長太郎。先公がつれてこいってうるせぇんだよ」
「宍戸!あんたまた先生に買収されたんでしょう?!今週の課題減らしてやるとか何とか!!」
引きずられながら叫んだの言葉に、宍戸は黙った。
つくづく嘘のつけない男だった。
「長太郎!次の休み時間に、またこの場所で!きっと、きっと来てね!」
「来ます!絶対来ます!」
ハンカチで涙を拭きながら、二人は離れていった。
ギャラリーも遠のき、残されたのは三人の男達。
「跡部ーいこー」
いつの間にか起きたジローが座り込んでいる跡部の袖をクイクイと引っ張った。
ダメージを受けていた跡部はゆっくりと立ち上がるものの、なにやらずっとぶつぶつ言っている。
「別に絡んで欲しくて猫じゃらし振ってたわけじゃねぇよ・・・ただ振ったらどういう反応するか実験してみたかっただけで・・・帰りゃ血統書つきのマリー(注:猫の名前)が俺を待ってるんだ・・・だから」
「うん、そうだね」
言ってジローは跡部を連れて行ってしまった。
一人残された忍足は屋上に向かった。
空が見たかった。
向日に電話を掛けてみたが、留守電だった。
[END]
氷帝祭第五弾はちょたですー。
私的にちょたはもふもふしているイメージがあります。
廊下とかで会ったらぱぁっと花を咲かせて満面の笑みで相手の名前を呼びながら駆け寄ってきてもふっと抱きしめてくれる、そんなイメージ。
それでヒロインちゃんが恥ずかしがったりなんかしたらもうかわいーってなってむちゅってしちゃうと思います。
理性のタガが外れやすいやつ、みたいな?(ぇ
御題はこちらでお借りしました↓
過酸化少年
けい
08,08,06 |